映画評「長崎の郵便配達」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2022年日本映画 監督・川瀬美香
ネタバレあり

ピート・タウンゼンド(ザ・フー)ならぬピーター・タウンゼンドなる英国空軍の英雄は、マーガレット王女の恋人と噂された人物である(「ローマの休日」のモデルとなったお話との由)という。

彼はその後、世界に目を向けて、かつての敵国である日本を訪れ、長崎の郵便配達夫だった谷口稜曄(すみてる)氏と会い、丹念に彼の経験を聞き取っていく。その事実を知った娘の女優イザベル・タウンゼンドが、本作の監督である河瀬直美ならぬ川瀬美香と住居のあるフランスで会ったことから、2018年に来日、父の残した録音をデジタル化して聴きながら父の歩いた長崎を歩いて、追体験する。

本作は、核兵器が残忍であることを嫌というほど思い知らせてくれると同時に、この極めてドラマ的な追体験による親子の情愛の奔出に激しく胸を打たれてしまう。かつて彼の通訳をした通訳者が父親が自然に触れる様子を話すのを聞くに及び、彼女は自分の知っている父親が蘇って嗚咽する。僕も大いにじーんとさせられた。

この二つの要素が絡み合って、夫々の感動を増幅する。

実際の映像ではない、谷口氏がかつて乗っていたような赤い自転車(英国と同じ色なのは英国の郵便事情を真似たから)を繰り出すなどちょっとしたドラマ的な趣向も、何ら映画の感動を阻害しない。これはドラマ映画化できる素材ではないかと思う。

第2次安倍政権の時に籾井勝人氏がNHK会長になって、それまでNHKがうるさいほどやっていた終戦特集が殆ど消えた。 “政府が右と言うを左とは言えない” と言う氏の下で、日米安保強化政策に邁進する安倍政権への忖度が働いたのは間違いない。籾井氏が去ってどうなるかと思ったら、結局そのまま。昔はうるさすぎたが、今は静かすぎる。今回WOWOWがその代わりとばかりに、日本の戦争に関わる映画を特集したのは良い。ごく一部の右派に、反戦は反日という意見を持つ人がいるが、反戦が国の為にならないという発想はどこから来るのか? そもそも彼らが反日という言葉を使う背景には外国人が意見を操作しているという陰謀説が垣間見え、実にバカらしい。

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