映画評「島守の塔」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2022年日本映画 監督・五十嵐匠
ネタバレあり

沖縄に詳しい方は、このタイトルである程度内容が予測できるのであろう。僕は灯台守のイメージが勝手に浮かび上がって困った(笑)。

1971年に発表された岡本喜八監督「激動の昭和史 沖縄決戦」と同工異曲の実話もの。軍部の描写が少なくなかった同作と比して、こちらはそれほど多くない。
 と言うのも、最後の官選沖縄知事となった島田叡(萩原聖人)と沖縄県警察部長・荒井退造(村上淳)の言動が眼目だからである。特に島田のリベラルでユニークな人物造形が目立ち、彼の付き人となった比嘉凛(吉岡里帆)に絡めてひめゆり部隊の女学生たちの活動も出て来る。

沖縄県の発表で国民の四分の一に当る9万人以上(沖縄出身の軍人・軍閥を含めると12万人超)が亡くなった沖縄戦の悲惨が描かれる。「激動の昭和史 沖縄決戦」の鬼気迫る感はなく、ぐっと一般ドラマ的な作りであるが、70余年後の現在、知事に “生きろ” と言われた比嘉凛(香川京子)が、彼と荒井ら職員の為に作られた慰霊碑 “島守の塔” を訪れ、“生きましたよ” と語り掛ける幕切れは至極感動的だ。彼女は “生きて虜囚の辱めを受けず” を信奉していたが、最後に彼の言葉を受け入れかくも長き生を得たのである。

“生きて虜囚の辱めを受けず” という観念は実はそれほど古いものではなく、日露戦争で捕虜になった軍人が敵に情報を洩らすことが多いのに困った軍部が、その後軍人勅諭として定着させていった。そもそもそれを民間人に当てはめるのは無理筋であるが、当時の軍人は権力を傘に言いたい放題だったということだ。

「激動の昭和史 沖縄決戦」を観た頃、日本国は教科書から沖縄民間人の自決に軍人が関わったという記述を削除させたが、こういうのを知らせないとまた同じ間違いを繰り返しかねない。教科書から削除させたグループは日本無謬論に取り付かれ、そんな事実はないと信じ込んで(いるふりをして)いるのだから、処置なし。過去に学ぶ必要はないと発言する変な歴史家までいる(それでは何のために歴史を研究しているの?)。

本作の幕切れは感動的だが、同時に僕は無力感を禁じ得ない。
 ここへ来て(SNSの普及以来)再び人間は愚かであるという思いを強くし、最近は日本も世界も滅びてしまえと厭世観が爆発している。馬鹿な人間の言動を見聞きするのに疲れた。

トランプが再び大統領になったら世界は混乱する。当座はともかく最終的にはアメリカにもマイナスに働くと思う。アメリカ人(共和党支持者の多く)は本当に阿呆ではないかと思う。前回の大統領選でロシアが工作したのは(どうも事実らしいが)、ロシア特にプーチンには自国にしか興味のないトランプの方が得策だからだろう。現在トランプが共和党の代表候補になったら民主党候補に勝てないと言われているものの、民主党も老骨しかいないので、希望的観測という印象が強い。日本政府も本音としてはトランプの勝利を望まないであろう。

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