映画評「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2022年アメリカ=日本合作映画 監督マリア・シュラーダー
ネタバレあり
“Me Too”運動のきっかけとなった映画製作者ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラに関して調査を続けたニューヨークタイムズ紙の二人の女性記者ミーガン・トゥーイー(キャリー・マリガン)とジョディ・カンター(ゾーイ・カザン)の奮闘を描く、彼女たち自身のノンフィクションを映画化した作品。
この度遂に実際に訴えられたトランプの暴行事件の報道に挫折したミーガンが、別のセクハラ事件を調べていたジョディと協力し合って、ワインスタインのアシスタントだった英国女性ローラ・マッデン(ジェニファー・イール)などに諦めることなく接触を試み、あるいは有名な女優アシュリー・ジャド(本人)やグウィネス・パウトロウ(声:本人)に説得し続けるうち、やがてローラからオンレコ証言の承諾を得て、記事発表に踏み切る。
僕は、セクハラ被害を告発する女性たちには頑張ってほしいと思う一方、加害者に対する過度とも思える反応(例えば、業績について語る価値もない等の一部識者の意見)には疑問を覚えている。長いこと被害者の人権をもっと考えろと言って来たが、他の犯罪と違って、有名人のセクハラ加害に関しては何故か加害者の人権が余りにも蔑ろにされているような感じがするのである。
アメリカは実に変な国だ。連邦最高裁の判事が不偏不党でないこと、大統領は自らに恩赦を与えられる、といった民主主義を阻害するものが幾つかある制度が首を傾げさせる一方、こういうスキャンダラスの内容の実話が実名で映画化されるところに物凄い可能性を感じさせる。。
日本ではこの手の映画が殆ど作られることはなく、あっても実名で出ることはほぼない。「金環蝕」(1975年)など実話をベースにしているのが明らかなのに、(原作の時点で)個人名も党名も架空のものに変えられ、優れた作品の価値を大いに下げてしまった。
本作は、実にタイトに呼吸よく、二人の試行錯誤と不撓不屈の奮闘ぶりを描き、セクハラ・パワハラの闇と共に、権力者に有利に働くような社会の仕組みをも暴き立て、実に興味深い内容となっている。素材が卑近なものだけに同じく二人の記者が奮闘する「大統領の陰謀」(1976年)以上に目が離せないと言っても良いくらい。
この題名を見ると、一部の人は必ずビートルズを思い出す。アルバム「リボルバー」の中に She Said She Said という曲があるので。
2022年アメリカ=日本合作映画 監督マリア・シュラーダー
ネタバレあり
“Me Too”運動のきっかけとなった映画製作者ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラに関して調査を続けたニューヨークタイムズ紙の二人の女性記者ミーガン・トゥーイー(キャリー・マリガン)とジョディ・カンター(ゾーイ・カザン)の奮闘を描く、彼女たち自身のノンフィクションを映画化した作品。
この度遂に実際に訴えられたトランプの暴行事件の報道に挫折したミーガンが、別のセクハラ事件を調べていたジョディと協力し合って、ワインスタインのアシスタントだった英国女性ローラ・マッデン(ジェニファー・イール)などに諦めることなく接触を試み、あるいは有名な女優アシュリー・ジャド(本人)やグウィネス・パウトロウ(声:本人)に説得し続けるうち、やがてローラからオンレコ証言の承諾を得て、記事発表に踏み切る。
僕は、セクハラ被害を告発する女性たちには頑張ってほしいと思う一方、加害者に対する過度とも思える反応(例えば、業績について語る価値もない等の一部識者の意見)には疑問を覚えている。長いこと被害者の人権をもっと考えろと言って来たが、他の犯罪と違って、有名人のセクハラ加害に関しては何故か加害者の人権が余りにも蔑ろにされているような感じがするのである。
アメリカは実に変な国だ。連邦最高裁の判事が不偏不党でないこと、大統領は自らに恩赦を与えられる、といった民主主義を阻害するものが幾つかある制度が首を傾げさせる一方、こういうスキャンダラスの内容の実話が実名で映画化されるところに物凄い可能性を感じさせる。。
日本ではこの手の映画が殆ど作られることはなく、あっても実名で出ることはほぼない。「金環蝕」(1975年)など実話をベースにしているのが明らかなのに、(原作の時点で)個人名も党名も架空のものに変えられ、優れた作品の価値を大いに下げてしまった。
本作は、実にタイトに呼吸よく、二人の試行錯誤と不撓不屈の奮闘ぶりを描き、セクハラ・パワハラの闇と共に、権力者に有利に働くような社会の仕組みをも暴き立て、実に興味深い内容となっている。素材が卑近なものだけに同じく二人の記者が奮闘する「大統領の陰謀」(1976年)以上に目が離せないと言っても良いくらい。
この題名を見ると、一部の人は必ずビートルズを思い出す。アルバム「リボルバー」の中に She Said She Said という曲があるので。
この記事へのコメント
>一部の人は必ずビートルズを思い出す
はいっ、一部の1人です^_^
と言うことでタイトルに引かれてUNEXTの観たいリストに入れていますが、多分40〜50本もリストに登録していて消化出来ません!
どうしたもんでしょうね… (図書館の予約カゴにも同じくらいの冊数を登録していますし) 暇なんですが1日が超絶早く過ぎていくのです。不思議ですね ^_^
ハーヴェイ・ワインスタイン、昔『ハリウッド・バビロン』で読んだ、デブ君・アーバックルを思い出してしまうところがあって。芸能ゴシップって「まあ、ひどい!」と言いながら下品な話題をみんなで消費して楽しむところがあるのでね、一種の猟奇ネタというか。読む方はせめてその点に自覚的であるべきなんですが。
最近のジャニー喜多川の件にも似たような印象を持っています。
>はいっ、一部の1人です^_^
反応して戴き、有難うございますm(__)m
>暇なんですが1日が超絶早く過ぎていくのです。不思議ですね ^_^
当方、暇ではないですが(笑)、当然時間があっという間に過ぎて行きます。計画通りに進まない為、性格故に、フラストレーションが溜まります。
>デブ君・アーバックルを思い出してしまう
彼の場合はどうも冤罪だったようで、余計に可哀想です。
淀川先生が彼によく言及されていましたよね。
>最近のジャニー喜多川の件にも似たような印象を持っています。
TV局が事務所との関係の悪化を怖れる余り、このスキャンダルに関する報道について抑制的で、どうもすっきりしませんね。
本作は近日中に観る予定ですがUNEXTのマイリストをチェックしていたらハル・ハートリーの「ヘンリー・フール」三部作が今月末で配信終了する事がわかりちょっと焦っております 💦
余談ですがここ数年私のiPhoneの待ち受けはリヴォルバーのレコジャケです。
>ハル・ハートリーの「ヘンリー・フール」三部作が今月末で配信終了
最近ご無沙汰ですが、ハル・ハートリーは一時期続けざまに見ました。
彼の作品は大体短いので、頑張って観てしまいましょう!
で、調べてみたら、1本以外は短くなかった^^;
>ここ数年私のiPhoneの待ち受けはリヴォルバーのレコジャケです。
僕に何のプラスにもなりませんが、嬉しいですね^^v
硬派な映画は疲れそうなので敬遠気味なのですが、いい作品は面白いんだよなあ、と、自分の感性が捨てたもんじゃないと、勝手に持ち上げています。
マリリンも、映画会社のお偉いさんと、たくさん、いろいろあった口でしょう。そのうち自分で独立プロつくっちゃいましたけど。
女優さんでも一方的な被害者なのか、自らの武器として利用したのか、人によって違うでしょうが、「被害者」がいる以上、犯罪ですね。
>「スキャンダル」
あの映画もトランプが少し絡んでいましたね。
映画的には、本作が圧倒的に上出来です。色々な意味でのサスペンスがあり、センセーションに流される甘さがありません。
>マリリンも
>女優さんでも一方的な被害者なのか、自らの武器として利用したのか、人によって違うでしょう
所謂枕営業。これで仕掛けたほうが訴えたら被害者と加害者が逆転しますが、そうせざるを得ないという環境は良くないですね。
ワインスタインは、この度ジャニー喜多川が指摘されたように、性的異常者なんでしょう。声を上げた人の数を考えると、色情狂(性依存症)。
「大統領の陰謀」(1976年)以上に目が離せないでしょう(笑)
あっちはディープスロート1人だが、コチラはいろいろな立場の多様な人たちが苦悩しつつ、心を開いていく
どうでしょう?
>あっちはディープスロート1人だが、コチラはいろいろな立場の多様な人たちが苦悩しつつ、心を開いていく
只管対象に迫れば良いのと違って、こちらの記者は被害者の心情も考慮しないといけないという難しさがあって、追及と配慮の狭間で面白味とサスペンスが生れるわけですね。
原作監督脚本すべて女性で、劇中でも主役は女性記者、証言してくれる女性たちも回想のなかで若い頃女性の友人と希望に満ちた楽しい時間を過ごした記憶が絵で出てきて、一方で男性の影が薄いのね、なんだか昔は男性中心でドラマが動いて、彼らを支える裏方として奥さんや母親や彼女がいた、それをそのまま反転させたみたいで。
「めぐりあう時間たち」「さざなみ」は、女性をよく描いたドラマになっていましたが、どちらもゲイの監督が撮ってましたよね、たしか。なんかそういうことを思い出させる面があった。
ヘテロは、希望をつなくのに子供を出しますけど。女性もねえ、都合の悪いこと、言語化しづらい面はないことにしちゃうのよねえ。そのへんを描けるのはゲイになるのかもしれませんね。
>これも調査報道を描いた作品
アメリカ映画では毎年一作くらい注目すべき報道ものが作られます。日本では多分永久に到達できない世界。羨ましい。
>男性の影が薄いのね、
>それをそのまま反転させたみたいで。
知恵がないと思いますね。
「大奥」という男女逆転の映画がありましたが、あれで噴飯したのは、男女をそのまま反転させた為に大奥が同じようにあること。女性の将軍に大奥がある必要がないのは明白な事実なんですけどね。将軍が抱える男性は、認知の問題がある(権力争いも関係するので絶対的に必要)ので、せいぜい通常の側室レベルで十分。
nesskoさんの仰るのとは違う類の話ですが、知恵がないお話と思ったものです。