映画評「彼女のいない部屋」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2022年フランス=ドイツ合作映画 監督マチュー・アマルリック
ネタバレあり

男優マチュー・アマルリックが監督をしたドラマ。孤独に陥った中年美人の心象風景で成り立っている作品である。

中年美人クラリス(ヴィッキー・クリープス)は家出をしているらしい。残された夫マルク(アリエ・アルトワリエ)、娘リュシー、息子ポールは何とかやっている。しかし、この三人の動向は、どうもクラリスの想像で、実はこの三人はアルプスで雪崩に巻き込まれて雪が解けるまでの2か月間放置されている模様。
 その間に彼女は色々な場所を歴訪したり、過去を思い出したり、リュシーに似た娘を追いかけたりするうち、やがて雪の下から三人の死体が発見され、彼女は慟哭する。かくして家を手放すことにしたクラリスは昔から乗っている車で旅立つ。

客観映像と主観映像が意図的に曖昧にされているが、時に三人の言動が彼女の言葉に従うのはそれが彼女の希望的妄想だからであろう。クラリスが駆る車は恐らく知り合った時に夫が乗っていたもので、この辺りはそこはかとなくじーんとさせられる。

アマルリックは前回観た「バルバラ セーヌの黒いバラ」同様一筋縄で行かない作品にしている。
 全編客観映像の映画であれば時系列がややこしいと言っても良いのだろうが、客観映像に見える部分も多くあるいはヒロインの主観かもしれないと考えると、時系列を分けて考えるには及ばない可能性あり。寧ろ音と画面の関係を考えて、それが客観あるいは主観(妄想・回想)の画面であるか識別する方が重要かもしれない。

ヒロインにとって現実は “彼らのいない部屋”。 邦題において主格に ”の” を使っているが文学的で、良いです。

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