映画評「パラレル・マザーズ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2021年スペイン=フランス合作映画 監督ペドロ・アルモドバル
ネタバレあり

ペドロ・アルモドバルのドラマ。

女流写真家ペネロペ・クルスが、法人類学者イスラエル・エレハルデに、スペインの “歴史記憶法” に基づき、内戦で不本意な死をした曾祖父らの遺体について発掘調査を依頼する。すぐには進められないものの、二人は昵懇の仲になり、彼女は妊娠し、癌を患う妻のいる彼の事情を考慮して、シングルマザーとして産み育てることにする。彼女と同室となった妊婦は不本意な妊娠をした17歳の少女ミレナ・スミットで、親しくなって退院する。
 ペネロペはエレハルデに、生まれた娘(インディオの血が混じっているように見える)が自分に似ていないのでDNAを調べろ、と言われる。言われもない暴言であるが、寧ろ自分と娘の関係が気になってDNA検査を実行すると、その結果は100%母子関係なしという報告が来る。つまり、ミレナの娘と取り違えたらしく、再会して娘を失ったと判明した彼女を子供の面倒を見るベビーシッターのような立場で雇う。
 同病相憐れむような関係が発展して同性愛関係に陥った後、ペネロペは彼女に憂鬱の理由を聞かれて、遂に真相を告白する。エレナは怒って不仲だった女優の母アイタナ・サンチェス=ヒホンの家に戻る。
 丁度その頃エレハルデに発掘調査をすることが決定したと告げられ、彼との仲も復活し、和解したミレナらと一緒に、遂に発掘された現場に臨む。

映画の殆どを占める取り違えの問題から、終盤の遺骨発掘というちょっと社会派的な問題への転換(復活)がやや乱暴でぎくしゃくしている印象は否めないが、脈々と伝わる血縁への思い(過去の記憶)に拘ったことがよく解る作りになっているとは思う。
 僕は寧ろこの血筋への思いが主題で、その為に取り違えの事件を絡めたのではないかとさえ感じる。それくらい血の問題即ち祖国で起きた悲劇的過去を重要視する態度に僕は感銘したのである。

完成度としては疑問を感じるものの、十二分に見る価値がありましょう。

欧州の押し付けを嫌がる右派日本人が少なくない。 日本も “歴史記憶法” のようなものがあると良いと思うが、現在の政府も東京都知事もネトウヨ同様に関東大震災での旧悪を半ばなかったことのように考えるような国では、あっても意味を成さない。僕は彼らのような人々を、日本無謬論者と名付けている。イジメがあっても学校や教育委員会は容易に認めようとしないし、全て自己保存の為の態度なのだろう。政治的立場の保守という名は体を表すね。

この記事へのコメント

モカ
2023年09月11日 12:15
こんにちは。

オカピー先生のレビューに100%同感です🙌

アルモドバルの全作品を観た訳ではないのですが、こういう歴史的なテーマは珍しいんじゃないですか? 日本で言うところの古希も過ぎ、スペインを代表する巨匠?になられたので、やはり避けて通れないテーマだったのかなと推測しております。

ラストの突然いなくなった夫や兄弟の事を語る老女達の話しっぷりや親族揃って発掘現場に行った様子が演出無しのドキュメンタリーを観ているようでした。
それまでのギクシャク感を洗い流して観ているこちらも静謐な気持ちになってしまいました。
オカピー
2023年09月11日 18:40
モカさん、こんにちは。

>アルモドバルの全作品を観た訳ではないのですが、こういう歴史的なテーマは珍しいんじゃないですか?

僕は大体観ていますけど、珍しいですね。
最近記憶が怪しいので間違っていたらごめんなさいですが、基本的に個人の問題しか扱って来なかったと思います。

>やはり避けて通れないテーマだったのかなと推測

どの監督も巨匠などと言われるようになると、総括するような気分になることがあるかもしれません。彼が直接的に内戦について語るなんて考えてもみませんでした。

>演出無しのドキュメンタリーを観ているようでした。

あのおばあさんたちは俳優なんでしょうけど、本当にドキュメンタリーみたいでしたね。

>静謐な気持ち

仰る通り。