映画評「ヒューマン・ボイス」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2020年スペイン映画 監督ペドロ・アルモドバル
ネタバレあり

ペドロ・アルモドバルが、オペラ化もされたことのあるジャン・コクトーの戯曲「人間の声」を翻案した、ほぼ一人芝居の短編ドラマ。

2020年のコロナ禍下で撮影を始める羽目になったらしいが、俳優の交錯が少ないだけに、結果的にその条件下ではうってつけだったのではあるまいか? 

犬を連れた女優ティルダ・スウィントンが斧を買って帰宅する。犬は3日前に別れて出て行った恋人が置いていったもので、憎らしくも彼女が割った主人のカップの砕片の上に座る。
 3日も音沙汰のない恋人に怒り、買って来た斧で残されたスーツを切り裂く。彼女は、やっと恋人からかかって来た電話にワイヤレス・イヤフォンを付けて応答、思いのたけを述べるが、何の進展もない。
 遂には部屋にガソリンを撒いて火をつけ、家を出ると、ついて来た犬に“私が主人よ”と言う。

家というのが、実は映画のセットの中で、どう解釈して良いのか正確には解らないものの、一種の劇中劇と理解したくなる次第で、なかなか面白い。

アルモドバルらしい鮮やかな赤の衣装を始め、衣装を次々と変えて出て来るティルダ・スウィントンの独り芝居が見どころであるのは言うまでもない。相変わらず異彩を放つ女優だ。

原作では悲劇に終わる。

この記事へのコメント

モカ
2023年09月12日 11:09
こんにちは。

学生時代、一般教養でとったフランス語の副読本でコクトーの「声」を読んだ記憶があります。ただの「声」、「La voix」だったと記憶しています。
内容は女性の一人芝居で、捨てられた男に電話で延々と「もう一度だけ逢いたいの、ねえいいでしょ?」
みたいな事を言い続けていたような…この映画とこれは別物ですかね?

本の表紙に描かれた絵が当時聴き始めたビリーホリデイのレコジャケ(デヴィッド ストーン マーチンが描いたベッドに裸で突っ伏した女の前に黒い受話器が転がっている、あの有名なやつ) によく似ていたのでそこだけはしっかり記憶に残っています。

それにしても一般教養語学で読む様な内容かい? とも思いますが語学レベルとしては簡単だし短かったからでしょうね、多分。フランス人に捨てられた時しか使えんなぁ、と思いましたわ。

オカピー
2023年09月12日 20:29
モカさん、こんにちは。

>この映画とこれは別物ですかね?

同じような気がします。

La Voix humaine という戯曲は、「人間の声」あるいは「声」というタイトルで上演されるようですよ。

しかし、本作は翻案ですので、どこまで内容が同じかどうかは解りません。

>ビリーホリデイのレコジャケ

それらしいものを見つけました^^v
モカ
2023年09月14日 00:28
こんにちは。

上映時間30分ということでさっき観てみました。
相変らず赤と日本で言うところの萌葱色の組み合わせがお好きな監督さん(未だに名前がそらで書けない) ですね。闘牛の牛が流す血の色がスペインの国の色なんでしょうか。
フランスのジャン=ピエール・ジュネも赤と緑の組み合わせが好きですけれどあちらはもうちょっと色がダークというか深いですね。

21世紀の自立した女は振られた腹いせに放火魔になってしまいましたとさ、というお話と解釈していいのかなぁ…
オカピー
2023年09月14日 12:20
モカさん、こんにちは。

>お好きな監督さん(未だに名前がそらで書けない)

スペインの多くの地区では、vをbの発音とするので、Almodovar がアルモドバルとなるそうですね。
日本の文科省だかどこかが馬鹿で、地名のvの表記に関して全部bの発音に統一させたようですが、語学の勉学の為にはマイナスだよなあ。まあ、僕はうっかりしない限りヴェトナムなどと書きますけど。でも、スペイン語など気を付けないといけない言語も結構あります。

>ジャン=ピエール・ジュネも赤と緑の組み合わせが好き
>ダーク

確かにちょっとくすんだ感じがありますね。

>21世紀の自立した女は振られた腹いせに放火魔になってしまいましたとさ

そもそも彼女が映画のセットの中に住んでいるのが、外的(映画としての表現)なのか、内的(実際に住んでいる)のか、線引きをしないのも、前衛的と言うか何と言うか。
モカ
2023年09月14日 15:59
こんにちは。

私がカタカナ名が覚えられないのはbとかvとかいうよりは、脳内でアルモドバル? アモルドバル? はたまたアバルドモル? がグルグルするという低レベルなお話なのです。自慢じゃないけどカウリスマキと自信を持って言えるようになるのに何十年もかかりましたよ。

放火の場面は危なかったですね。画面下にテロップで「これはフィクションです。良い子も良い大人も危険ですから絶対に真似をしないで下さい。」って入れるべきですね。彼女の足元にオイルが結構かかってましたよ。あんな事をしたら京都アニメーション事件みたいに本人にも引火しますよ。
それからガラスの花瓶やらポットやらを床の上に叩き割って、ワンコがその上を歩いたり座ったりしているのも怖い話でしたね。破片が肉球に刺さるやんか!
ホント、男に振られたくらいであんな狼藉を働くなんてとんでもない女ですわ。
大体服を破壊するのに斧が要るか? たちばさみで充分や! と、観ているこっちも結構怒ってしまいますね。

モカ
2023年09月14日 16:05
追記です。
今わかりましたが、あの斧は男が帰って来たら頭を叩き割ってやるつもりだったんですよ。間違いなしにサイコパスです。^_^
オカピー
2023年09月14日 20:25
モカさん、こんにちは。

>脳内でアルモドバル? アモルドバル? はたまたアバルドモル? がグルグルする

あははは。
実は僕も二人いて、M・ナイト・シャマランが、シャラマンとの間で解らなくなる。ユダヤ人のような~マンではない方と思い出すようにしています。
もう一人は、ケネス・ブラナーで、ついブラガーと言ってしまいます。英語での表記Branaghにおけるgが悪いことをしているようです。

>ワンコがその上を歩いたり座ったりしているのも怖い話でしたね。

全く。
犬が座るのは本物のガラスではないとは思いますが、撮影上はともかく・・・

>間違いなしにサイコパスです。^_^

そう言うしかないようです^^;