映画評「LAMB/ラム」
☆☆★(5点/10点満点中)
2021年アイスランド=スウェーデン=ポーランド合作映画 監督ヴァルディマル・ヨハンソン
ネタバレあり
北欧からは最近動物絡みの奇妙な映画がよく届く。これはアイスランド発の一種のファンタジーである。
アイスランド。羊飼いの夫婦が飼う雌羊がヤギの頭を持つ半獣半人を生む。暫くその事実は伏せられているが、夫婦の様子から大体想像がつく。
妻マリア(ノオミ・ラパス)も夫イングヴァル(ヒルミル・スナイル・グドゥナソン)も不思議に思わず、アダと名付けて大事に育てる。アダが何年か前に死んだ娘の名前であることは後段で判る。ここはなかなか感動的だ。
ある日突然舞い戻った弟ペートゥル(ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン)は当然この状態を不自然に思うが、次第に馴染んでいく。
彼が来る前、マリアは自分達が可愛がっているアダを奪い返しに来る母羊を殺している。弟が去った後、調子の悪いトラクターを直しにアダと出かけたイングヴァルが、何者かに撃たれる。
というお話で、夫婦が子羊に初めて接した時に全く驚かないことから推しても、本作は最初から徹底した寓話である。細君が夫が雌羊と獣姦したのではないかという疑問など持つ、といったそういう俗的な方向に進まず、神話的なムードが醸成される。
神話的ムードで一貫しているとは言え、アダの父親がサチュロス(ミノタウロス/ケンタウロスの羊版)という最後の種明かしには吃驚したデス。サチュロスはギリシャ神話で欲情を象徴する。
テーマは二つあるようである。
一つは見た目通り、他人の子供を奪った者は復讐される、というミーハー的な興味と繋がるもの。
もう一つは、生命を寿ぐ映画であること。殺したマリアではなく、夫が殺されるのは、彼女が次の子供を産む(と理解される)母親だからだ。母親を殺しては生命を寿げない。
彼女の名前がマリアであるが故に、キリスト教的寓意と考える(キリストは神の子羊とも言われる)向きもあるが、これは考え過ぎかもしれない。この映画のムードはキリスト教の寓意というイメージよりぐっと未開時代の野趣に溢れる。
ヤギの頭と言えば、ローリング・ストーンズの「山羊の頭のスープ」はプロの間で極めて評判が悪い。僕は中学生の時に聴いた「悲しみのアンジー」や「ドゥ・ドゥ・ドゥ」の2曲は好きですがねえ。
2021年アイスランド=スウェーデン=ポーランド合作映画 監督ヴァルディマル・ヨハンソン
ネタバレあり
北欧からは最近動物絡みの奇妙な映画がよく届く。これはアイスランド発の一種のファンタジーである。
アイスランド。羊飼いの夫婦が飼う雌羊がヤギの頭を持つ半獣半人を生む。暫くその事実は伏せられているが、夫婦の様子から大体想像がつく。
妻マリア(ノオミ・ラパス)も夫イングヴァル(ヒルミル・スナイル・グドゥナソン)も不思議に思わず、アダと名付けて大事に育てる。アダが何年か前に死んだ娘の名前であることは後段で判る。ここはなかなか感動的だ。
ある日突然舞い戻った弟ペートゥル(ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン)は当然この状態を不自然に思うが、次第に馴染んでいく。
彼が来る前、マリアは自分達が可愛がっているアダを奪い返しに来る母羊を殺している。弟が去った後、調子の悪いトラクターを直しにアダと出かけたイングヴァルが、何者かに撃たれる。
というお話で、夫婦が子羊に初めて接した時に全く驚かないことから推しても、本作は最初から徹底した寓話である。細君が夫が雌羊と獣姦したのではないかという疑問など持つ、といったそういう俗的な方向に進まず、神話的なムードが醸成される。
神話的ムードで一貫しているとは言え、アダの父親がサチュロス(ミノタウロス/ケンタウロスの羊版)という最後の種明かしには吃驚したデス。サチュロスはギリシャ神話で欲情を象徴する。
テーマは二つあるようである。
一つは見た目通り、他人の子供を奪った者は復讐される、というミーハー的な興味と繋がるもの。
もう一つは、生命を寿ぐ映画であること。殺したマリアではなく、夫が殺されるのは、彼女が次の子供を産む(と理解される)母親だからだ。母親を殺しては生命を寿げない。
彼女の名前がマリアであるが故に、キリスト教的寓意と考える(キリストは神の子羊とも言われる)向きもあるが、これは考え過ぎかもしれない。この映画のムードはキリスト教の寓意というイメージよりぐっと未開時代の野趣に溢れる。
ヤギの頭と言えば、ローリング・ストーンズの「山羊の頭のスープ」はプロの間で極めて評判が悪い。僕は中学生の時に聴いた「悲しみのアンジー」や「ドゥ・ドゥ・ドゥ」の2曲は好きですがねえ。
この記事へのコメント
私もラストで腰抜かしそうになりましたよ。あれはサチュロスというんですか!
知らんかった〜
あんな人里離れた辺鄙な土地で羊相手に暮らしているといろんな妄想が湧いてくるんでしょうね。何年か前にもカインとアベルの現代版のような爺さん2人の羊をめぐる確執がテーマの映画がありましたね。(タイトルは当然失念)
「羊をめぐる冒険」は村上春樹の十八番じゃなかったんだ〜 そらそうですわね。
日本に本物の羊が入ってきたのはいつ頃なんでしょう? 文様としては正倉院の御物にも描かれていますけどね、多分…
ストーンズの「山羊の頭のスープ」!!!!!
私はプロじゃありませんが中1で“Tell me”を聴いてからずーっと好きだったストーンズを見限るきっかけになったレコードなんですよね (>_<)
あっ、”It’s only rock’n’ roll”からかな?
どっちが先かも忘れましたがストーンズはイグザイルまでですね。これは私の同世代では結構共通認識なんですよ。アンジー嫌いとか ^_^
すいません、いらん茶々を入れまして…この辺りの5歳の差は大きいと言うことでおさめてくださいませ。(ひょっとしてチャチャを入れるって関西弁? 通じました?)
でも、it’s only …この曲は好きですよ。歌詞が良いです。その心意気は素晴らしいのですが…
>あれはサチュロスというんですか!
サチュロス(もしくはサテュロス)は、厳密には羊頭狗肉もとい羊頭人体ではなく、人の顔に角があり、羊の尾があるという、ミノタウロスやケンタウロスとも違う作りですが、まあサチュロスのヴァリエーションです。
>カインとアベルの現代版のような爺さん2人の羊をめぐる確執がテーマの映画がありましたね。
ありましたよ^^
「ひつじ村の兄弟」と言いました。最後に聖書通りにならないところが良かった。あれもアイスランドですよ。アイスランドが羊の国ということが解りますね。
>これは私の同世代では結構共通認識なんですよ。アンジー嫌いとか ^_^
一昨年くらい65年くらいからの充実した時期の数作を続けて聞きこんで(と言う程でもないですが)、何となくその感覚は解るような気がしました。ちょっとキャッチーすぎるのが良くないんだろうなって。
>ひょっとしてチャチャを入れるって関西弁? 通じました?
いやっ、これは全国区ですよ。