映画評「ジャズ・ロフト」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年アメリカ映画 監督サラ・フィシュコ
ネタバレあり

当ブログ常連投稿者のモカさんにより紹介されたドキュメンタリー。
 原題はもっと内容に接近していて(通常アメリカ映画の場合は逆)、その為本作が「MINAMATA - ミナマタ」でその後半生が紹介されていた写真家ユージン・スミスが関わっている、と言うか、主人公であることが凡そ予想される。

1957年に家族と別れて独り彼が越したニューヨークはマンハッタン6番街のロフトは、ジャズ・ミュージシャンが集まる場所と判明、スミスは無数の写真とオープンリール・デッキによる録音を残すのである。つまり、それが原題の according to (による・・・名詞的に言えば “~の証言” といったところ)の意味するところだ。

この題名はもう一つ、人間の主人公はスミスで、事物の主人公が(ロフトを舞台とする)ジャズであるということ、を示していると思う。
 それに則るように、映画は、前半スミスの人生を語り、後半はスミスを背景に通称ジャズ・ロフトを見せる。グラデーションするように入れ替わる辺りが映画的に巧みと言えるのではないだろうか。

スミスはレンブラントを意識して光と陰とを強調する写真を撮って来た。あるがままの写真というより、写真に細工を施して、芸術写真にしている。この、絵のような写真群が僕はなかなか好きである。
 そして、スミスは物凄い記録魔だった(というのが解って興味深い)。

ジャズ・ファンには後半がお楽しみ。ジャズは全く知らないわけでもないが、ロックに比べると知識は限定的で、少なからぬインタビュイーの中で知っているのはカーラ・ブレイのみ。彼らの証言と写真によって出て来る顔ぶれの中でも、ズート・シムズ(サックス)とセロニアス・モンク(ピアノ)のみ。

ジャケット買いもするというモカさんは、そのモンクのアルバム・ジャケットにユージン・スミスが絡んでいることを不思議に思っていたようで、この映画でその理由が解ったと喜んでいらっしゃった。
 その他、音楽教師でもあるホール・オーヴァートンなる、日本では余りお馴染みでないであろう作曲家・音楽教師がモンクの変則的な演奏を採譜するところなどなかなか面白い。

ジャケットにも興味あるモダン・ジャズ・ファンはどうぞ。

アメリカ史上一番有名なユージン(ユージーン)は、大劇作家ユージン・オニールだろう。続いてスミスか。今読んでいるソール・ベロー「雨の王ヘンダソン」の主人公も偶然にもユージンだ。

この記事へのコメント

モカ
2023年10月02日 12:02
こんにちは。

早速のアップありがとうございます。

> 原題の according to (による・・・名詞的に言えば “~の証言” といったところ)

原題を知りませんでした。

カーラ ブレイ、セロニアス モンク、ズート シムズ  
 私もこの辺りしか分かりませんんでしたが、モンクさんは昔っから好きなんです。
 最近は村上春樹が何かで取り上げたらしく若い人達にも認知されるようになったらしいですが。

 若い頃からレコードのジャケ買いであまり外れた事がないという何の根拠も無い自信を持っていますが…^_^
たまには読んでいた音楽雑誌で評判の物の方が外れましたね、私の場合は…どう言うこっちゃ?

 しかしあの配線しまくりは許されるんですか? FBIかなんかみたいでしたね。
 やはり才能豊かな人って何かが過剰なんですね。凡人には計り知れません。
 ライフ誌の上司と喧嘩ばっかりしていたとかで、ユージンスミスの「窓から飛び降りてやるぅ!」に「Go ahead!」と返されていたという証言が面白かったです。
 

オカピー
2023年10月02日 18:03
モカさん、こんにちは。

>早速のアップありがとうございます。

こちらこそ、勝手にハンドルネームを出わせて戴きました。
悪しからず。

>モンクさんは昔っから好きなんです。

変てこなところが良いです。
会社の先輩が“おもしれーぞ”と言っていたので、気になっていましたが、実際に聴いたのはずっと後。

>しかしあの配線しまくりは許されるんですか?

1950年代ですから、色々なコンプライアンスが緩かったのでしょう。

>やはり才能豊かな人って何かが過剰なんですね。

その意味で「ミナマタ」のジョニー・デップ起用は嵌っていたのカモ。