映画評「夜、鳥たちが啼く」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2022年日本映画 監督・城定秀夫
ネタバレあり

以前「アルプススタンドのはしの方」という面白い映画を見せてくれた城定秀夫監督の作品。あの作品は高校生たちの作った原作が面白いと言うべきなのだろうが、今月は一気に新作がWOWOWで観られるので、ちょっと監督の指向性でも調べて行きたい。

十代で注目されたもののその後は鳴かず飛ばずの若手作家・山田裕貴が嫉妬深い性格が災いして内縁の妻・中村ゆりかを首に追い込んだ末に出て行かれる。暫くして彼に同情してくれた仕事場の先輩が細君松本まりかと離婚する。山田君は、その妻と息子(森優理斗)を自分の貸戸建てに住まわせ、自分は横にあるプレハブで暮らすことにする。

その経緯はよく解らないが、先輩の妻を横取りするというプロットの小説を考えている彼に対して “また自分の話?” という台詞が放たれることを考えると、横取りとまでは行かないまでもそういうムードがあり、そのことに対して旦那が山田君同様に嫉妬したのではないか、などと考えられもする。

以降、彼らの関係は、肉体関係に及んでも、とりわけ松本まりかの慎重さがあって、モラトリアムな関係が続くが、息子が強く青年を慕っていることなどから、彼女も宗旨替えをするかもしれない。

本作を予定調和と仰る人がいるが、全然違う。
 ハッピー・エンド=予定調和というのがそもそもデタラメな考えながら、それ以前に本作はハッピー・エンドなのかも実は曖昧である。とりあえず登場人物たちが内縁であろうが正式であろうが、男女と子供から成る家庭生活から距離を置こうとしていたことに対し、少し考え直して見ようか、という程度のハッピーさである。青年は一向に売れそうもないし。
 もう一つ別の観点から予定調和でないことを証明したい。原作者が41歳で自殺した佐藤泰志だから、原作者を事前に知ってしまった鑑賞者はハッピー・エンドになど絶対にならないと思っている。この映画のようなハッピー・エンド的な幕切れは全く予想外。但し、彼の映画化作品は、ハッピー・エンドでなくても、曙光が差すという感じに終わることが多いのも事実である。

ついでに言えば、僕は、哲学用語【予定調和】を安易に使うのも大嫌いで、基本的にはこの用語は使わず、大体型通りや定石という単語を使う事が多い。

私小説に近い立場の佐藤泰志の映画化された小説は、男女の交情を描いたものが多いが、本作はその中でも特に事件らしい事件が起きず、その意味では面白味が薄い。しかし、大半の人間の人生はこの程度であり、描写ではなくお話のリアリズムという意味で実際の人生に近いものを感じる。
 映画的には二人の男女の関係が安定に向かうにつれ、夜鳴く鳥の声が静かになっていくところが象徴的で面白い。それを発情期と関連付ける人もいる。

城定監督は、非常にゆっくりしたズームを使うのが、本作では印象に残る。

そして、夜、きみの鳥はうたえる

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