映画評「女子高生に殺されたい」

☆☆★(5点/10点満点中)
2022年日本映画 監督・城定秀夫
ネタバレあり

先月WOWOWで初放映された時には、青春コミックを想起させる題名故に敬遠したが、今注目株らしい城定秀夫監督特集の中にあったので、観てみることにした。原作は、古屋兎丸という漫画家のコミック。

進学校と称する男女共学校に女子高生に持てそうな青年日本史教師の東山(田中圭)がやって来る。

北関東(特に群馬)以外に住んでいる方はわざわざ男女共学と冠を付ける必要性を感じないであろうが、群馬県は伝統的に公立進学校はほぼ全て男女別学であるから、どうもそう言いたくなる。尤も、開成やらラ・サールなど私立の中にも超エリートが集まる学校では別学が多いというイメージが僕にはある。
 しかし、この高校は僕の考える進学校の姿ではない。進学校の生徒は先生の話を聞かないのは損だから、大概聞く。聞かない場合も他の生徒の邪魔はしない。少なくとも田舎の進学校であるわが校ではそうだった。大体進学校で中学で十分習う “元寇” のアウトラインを今更説明しますか? 

それはともかく、この先生がこの学校に来たのには彼の姦計が働いていて、この学校にいる2年生の真帆(南沙良)に殺される為に赴任、運命的な11月8日に殺される為に文化祭における演劇に「エミリーの恋人」という戯曲を選ぶ。
 真帆はどちらかと言えば大人しめの生徒だが、彼女には口の悪い “かおり” と凶暴な ”キャサリン” という別人格があり、そのうちのキャサリンに殺されるのが彼の願望なのだ。そして映画化されてTV放映もされた「エミリーの恋人」の登場人物キャサリンは、真帆の別人格を生んだキャラクターである。
 彼は教師に転ずる前はサイコロジー専攻の学生だったが、自分の性癖と8歳で大人を殺した真帆という少女の多重人格が結合した結果、ここに至るのである。

彼のような性癖をオートアサシノフィリアというらしい。オートは自分、アサシノのアサシン(暗殺)の変化形、フィリアは偏愛。不勉強でこんな性癖があるとは僕は知らなかったが、説明されるまでもなく自殺願望と全然違うのは解る。
 サイコパス映画の一形態で、 お話としては、 加害者が被害者(?)に殺されるのを未然に防ごうと周囲が懸命になるという矛盾した設定に、ひねくれた面白味がある。

城定監督は「夜、鳥たちが啼く」同様にカメラをゆっくり動かすところが多い一方、夜が多かった同作とは対照的に日差しを効果的に使って、画面で見る映画に値する作品にしているが、全体としては加害者を救うべく被害者側が一生懸命になるというパラドックスの面白味に尽きる映画であろう。
 とは言え、オートアサシノフィリアに多重人格者、加えて超能力者(河合優実扮するヒロインの親友あおいで、予知能力と動物の心を読む力がある)まで出て来るのは、いかにファンタジーと言ってもちと賑やかすぎ、却ってマイナス。

スポーツ実況の解説者の中に“有効的”という、【いにしえの昔】式の言葉を使う人がいる。 半分までは行かないかもしれないが、それに近い。 “効果” は名詞であるから “効果的” という形容詞が必要であるが、”有効”(効果有り、の意味なり)は既に形容詞なのでそれに ”的” を付けるに及ばない。 友好的と間違えているのかな(笑)。 ついでに言えば、 大谷選手が広めて現在世の中を席巻している、 “かなと思う” と言い方も【いにしえの昔】式の言い方である。

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