映画評「放課後アングラーライフ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2023年日本映画 監督・城定秀夫
ネタバレあり

城定秀夫監督特集第3弾。脚本・脚色作を含めればまだまだ続く。原作は井上かえるという若手作家のライト・ノベルらしい。内容から言って女性だろう。

東京(?)の学校で虐めに遭っていた女子高生・十味(とーみ)が、幸運にも、父親の転勤によって、西日本の海岸地区に引っ越す。

現代劇であれば出て来る自動車のナンバーを見ると、凡そどの辺りが舞台か解るのだが、本作は終ぞ解らず。
 しかし、作者が兵庫県出身なので、僕の西側方言の知識では見当がつかないものの、兵庫県かもしれない。ただ、ぼけぼけながら八百屋宇野祥平の車のナンバープレートには湘南とあったように見えた。ロケ地は三浦半島だそう。本当に湘南だったかもしれない。もっと西側のナンバーを用意できなかったかねえ。

今度の学校では、放課後に釣りを楽しむ同学年三人組と何とか親しくなる。友情が虐めに転換した苦い経験をしている十味は、傷に触るが如くびくびくしながら三人と接する。
 最初に彼女の虐めの経験に気付いたのは、三人の中で一番繊細さを持っていそうな眼鏡少女・森ふた葉である。多少釣りが上達した頃、何にも知らない明るいリーダーのまるぴがオコゼの毒にやられた振りをして十味を揶揄う。これにより東京時代の苦い体験を思い出した彼女はすっかり引き込み、連絡も取らない日々が続く。
 が、まるぴが七七匹の鱚を釣ると願いが叶うという迷信を信じてか、熱中症に倒れる。ラインを受け取ってさすがに心配になって病院に駆け付けた彼女は過去を告白し、元通りの仲良しに戻る。

友情論映画である。友情にはインチキなものとそうでないものがあることを具体的に説き、描写に軽味(軽さとは全然違う観念なので要注意)があるのが良い。

子供にとって実に丁度良い親に育てられ、兄弟とも仲の良い僕は友人より家庭を信用するが、勿論そうではない家庭もあるのは理解している。だから、政府がこども庁に “家庭” を付けた時にまた自民党右派が余計な事をしやがったと腹が立った。これには、遂に解散請求される運びとなった統一教会が絡んでいる、という噂もある。

閑話休題。
 とにかく家庭を重んじるか友人を重んじるかは個人の勝手で、ヒロインとこの三人との間には本物の友情が育つだろう。
 この三人の性格差も丁寧に描かれている。リーダーのまるぴは乗りの良いお調子ものに近いが、人の心を理解する能力を持っていないわけではない。七七匹の鱚を釣ろうとするなんて泣かせます。
 鱚と言えば、彼女とヒロインの距離感の近さをloveかlikeかと問い詰めるサブ・リーダー平井珠生の扱いが良い。リーダーにS的な思いを懐いている彼女は、二人が間接キスをした為、激しく嫉妬する。当の二人にはそんな気が全くないのだが。が、映画の最後の釣りの際に遂に彼女は間接キッスを実現する。釣りに夢中に他の三人は彼女が随喜の涙を流しているのに気づかない。青春ですなあ。

この映画でも城定監督はカメラをゆっくり動かすところが、目立つというほどではないが、多い。今のところこれくらいしか掴めていない。

キスが好き。回文ですな。

この記事へのコメント