映画評「零落」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2023年日本映画 監督・竹中直人
ネタバレあり

竹中直人が出演しないで監督だけに専念した純文学映画。原作は浅野いにおなる漫画家のコミックとの由。映画化されるコミックにもこんなしんねりむっつりした作品があるんだねえ。

7年続いた人気作を終えて目的を失っている落ち目の漫画家・斎藤工は、他の売れっ子漫画家の編集者を務める細君MEGUMIとの仲も冷えている。事務所を閉じてアシスタント二人も馘首しなければならない。フラストレーションのはけ口を求めた結果、痩身のデリヘリ嬢・趣里と知り合う。祖母の為に一時的に仕事を中断して実家のある田舎に帰る彼女について行き、暫しそこで過ごす。駅で別れる時に彼は彼女と子供とで過ごす幻想をほんの一瞬見る。
 別れた二人はその後まともな形で会うことはなく、アシスタントだった山下リオはデビュー作でそれなりの成功を収めたようである。売れることに漫画の価値を見出せない彼は、しかし、自分の信念に逆らって大衆的な作品で再び脚光を浴びる。彼の真の姿を理解するのは、若い時に彼の作品を読んで “先輩は怪物” と言った後輩の少女・玉城ティナしかいない。

小説で言えば純文学作家で、その中でも孤高派とでも形容したくなる主人公は、他の人間から見れば傲慢であるが、それは他の人間が誰も彼の正体を理解しないことが原因となっている。
 彼が猫の目を持つ趣里に弱いのは、彼を見抜いた少女が猫の目を持っていたからである。彼女は “彼の漫画は二度と読まないだろう” と言った。彼は愛読者に二度と読んで貰えない(売れることは求めないが現実は売れないと書かせてもらえない)アンヴィバレントな様相を理想として持つことになる。
 かくして彼は彷徨える孤高な魂であり続け、少女が言ったように、漫画を止めるまでは彼はその孤独を止めることはできまい。
 漫画家は解らないが、純文学小説家にはこの孤独に苦しむ作家は多く、また、多かったであろう。

竹中直人は真面目な映画を撮る時、実に端正な画面を作る。ブラックアウトでシークエンスを転換する手法もクラシックで悪くない。内容に比して少々長い気がするが。

内容分析は趣味ではないが、どうも最近は画面を分析するパワーがない。

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