映画評「オットーという男」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2022年アメリカ=スウェーデン合作映画 監督マーク・フォースター
ネタバレあり
自国の作家フレドリック・バックマンの小説を映画化したスウェーデン映画「幸せなひとりぼっち」をアメリカ映画界がリメイク。アメリカ映画におけるオリジナル脚本の欠乏は誠に嘆かわしい。
勿論、脚本欠乏問題と作品の価値は無関係であるわけで、この作品はなかなか良い。監督が僕が信頼しているマーク・フォースターなので、さすがにしっかり見せている。
きちんと整理された地区。長年連れ添った細君ソニャ(若い頃レイチェル・ケラー、因みに老年期の彼女は登場せず)に先立たれたオットー(トム・ハンクス)は長年奉仕してきた会社から首を言い渡されて絶望、首吊り自殺を試みるが、隣の引っ越し騒動に水を差される。何度試みてもその度に邪魔が入る。それは彼が元地区会長で、規律を守らないことが大嫌いで、口を挟まないではいられないからである。いつも面白くなさそうな顔をして他人と距離があるようでいながら、つい口を挟み、頼まれた仕事はまず引き受ける。隣人たちもそれを知っていて平気で頼み事をする。案外気の置けない仲なのだ。
越してきたばかりのメキシコ人妻マリソル(マリアナ・トレビーノ)もそんな彼に躊躇せずに接近、夫が入院中の病院に連れて行ってもらったり、自動車の運転を教えてもらう。二人の幼い娘も全く怖がらずに親しむ。
自殺を試みるごとに、妻と知り合い結ばれた若き日(トルーマン・ハンクス、トム・ハンクスの実子)やその後の半生を思い出し、益々親しさを増したマリソルに、妻が流産し下半身不随になった経緯を語る。自殺願望も半ば遠ざかった頃先天性の心肥大に倒れても彼はまだ死なない。しかし、ある冬の朝、遂に妻が待つ天国へ旅立つ。
梗概に差異が少ないので、前回書いた梗概を大いに利用した。
主人公は、規律を守らないのが大嫌いで、頑固一徹だが、政治的保守と違ってマイノリティが秩序を乱すなどとは毫にも考えず、LGBTQも移民もマジョリティと同じように扱う。同じように厳しく同じように優しい。
彼は先天的な肥大性心臓疾患を持っていて、最後の方にはハートが大きいという冗談にまでなっていく。主人公の曲がったことが嫌いな性格も主題もオリジナルと全く同じで、急激に変わりつつある社会の価値観の問題をさりげなく挟みながら、理想的な人間関係を見せる作品である。日本の長屋ものに通ずる風情がありはしないか。
オリジナルより娯楽映画としてウェルメイドという気がする一方で、悪役扱いの住宅業者をSNSの生放送を駆使して撤退させる辺りは、最近のアメリカ映画の定石的扱いにすぎて、ややマイナス。
トム・ハンクスが好調。
木下順二が書いた戯曲「オットーと呼ばれる日本人」を思い出しました。
2022年アメリカ=スウェーデン合作映画 監督マーク・フォースター
ネタバレあり
自国の作家フレドリック・バックマンの小説を映画化したスウェーデン映画「幸せなひとりぼっち」をアメリカ映画界がリメイク。アメリカ映画におけるオリジナル脚本の欠乏は誠に嘆かわしい。
勿論、脚本欠乏問題と作品の価値は無関係であるわけで、この作品はなかなか良い。監督が僕が信頼しているマーク・フォースターなので、さすがにしっかり見せている。
きちんと整理された地区。長年連れ添った細君ソニャ(若い頃レイチェル・ケラー、因みに老年期の彼女は登場せず)に先立たれたオットー(トム・ハンクス)は長年奉仕してきた会社から首を言い渡されて絶望、首吊り自殺を試みるが、隣の引っ越し騒動に水を差される。何度試みてもその度に邪魔が入る。それは彼が元地区会長で、規律を守らないことが大嫌いで、口を挟まないではいられないからである。いつも面白くなさそうな顔をして他人と距離があるようでいながら、つい口を挟み、頼まれた仕事はまず引き受ける。隣人たちもそれを知っていて平気で頼み事をする。案外気の置けない仲なのだ。
越してきたばかりのメキシコ人妻マリソル(マリアナ・トレビーノ)もそんな彼に躊躇せずに接近、夫が入院中の病院に連れて行ってもらったり、自動車の運転を教えてもらう。二人の幼い娘も全く怖がらずに親しむ。
自殺を試みるごとに、妻と知り合い結ばれた若き日(トルーマン・ハンクス、トム・ハンクスの実子)やその後の半生を思い出し、益々親しさを増したマリソルに、妻が流産し下半身不随になった経緯を語る。自殺願望も半ば遠ざかった頃先天性の心肥大に倒れても彼はまだ死なない。しかし、ある冬の朝、遂に妻が待つ天国へ旅立つ。
梗概に差異が少ないので、前回書いた梗概を大いに利用した。
主人公は、規律を守らないのが大嫌いで、頑固一徹だが、政治的保守と違ってマイノリティが秩序を乱すなどとは毫にも考えず、LGBTQも移民もマジョリティと同じように扱う。同じように厳しく同じように優しい。
彼は先天的な肥大性心臓疾患を持っていて、最後の方にはハートが大きいという冗談にまでなっていく。主人公の曲がったことが嫌いな性格も主題もオリジナルと全く同じで、急激に変わりつつある社会の価値観の問題をさりげなく挟みながら、理想的な人間関係を見せる作品である。日本の長屋ものに通ずる風情がありはしないか。
オリジナルより娯楽映画としてウェルメイドという気がする一方で、悪役扱いの住宅業者をSNSの生放送を駆使して撤退させる辺りは、最近のアメリカ映画の定石的扱いにすぎて、ややマイナス。
トム・ハンクスが好調。
木下順二が書いた戯曲「オットーと呼ばれる日本人」を思い出しました。
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