映画評「キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2019年イギリス=フランス=アメリカ合作映画 監督マルジャン・サトラピ
ネタバレあり

ノーベル賞を物理学賞・化学賞二部門で受賞したマリー・キュリー(とその夫ピエール)の伝記は1943年にマーヴィン・ルロイが映画にしているが、80年前の映画だから美談的な扱いが目立った記憶がある。それに比すると、こちらはずっと厳しい。

ポーランド移民のマリー(ロザムンド・パイク)は負けん気の強い女性で研究室を追い出される。彼女に研究室を提供するのが物理学者ピエール・キュリー(サム・ライリー)で、その条件らしきものは共同研究すること。渋々承知するうちに愛情が芽生えて結婚、ラジウムとポロジウムの発見で物理学賞(本来は化学賞だが、その経緯を評価された)を受賞する。事実上同じ理由で夫の事故死の後マリーが化学賞も受賞するのはその為らしい。

この映画は、夫君とのちょっとした口論や、妻ある夫君の教え子ポール・ランジュバン(アナイリン・バーナード)に慰めを求めて起きた不倫騒動など、彼女にとってそう褒められない(責めることもできない)ネガティヴな要素もきちんと綴っている。
 それを基にして起こるフランス市民による ”出ていけ騒動” など全く見苦しい。彼女はユダヤ人ではないが、ユダヤ人は出ていけとまで言われる。ユダヤ人問題はナチスだけの専売特許ではないことがよく解る。
 挿話の一々は現実的な扱いで、史実にかなり忠実に作られている模様である。

映画として良いのか悪いのか議論になりそうなのは、癌治療といった放射能の利点と原子爆弾や原発事故といった放射能の問題に関わるマリー死後の現象を突如挿入したり、交錯させたりする辺りの作劇だ。内容的に文句はないが、これにより即実的であった映画的ムードが崩れたり、展開が散漫になっているというマイナス面は否定できない。

他方、後にノーベル賞を受賞する娘イレーヌ(アニャ・テイラー=ジョイ)に急き立てられて病院嫌いのマリーが病院の外即ち戦場で懸命に負傷兵の力になろうとする挿話は感動的。昔風の夫婦愛の描出も、ちょっとした口論などを挟んだ結果ぐっと強化されたような気がする。

ロザムンド・パイクの力演が印象深い。

元素は、物理と化学の橋。

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