映画評「ペルシャン・レッスン 戦場の教室」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2020年ロシア=ドイツ=ベラルーシ合作映画 監督ヴァディム・パレルマン
ネタバレあり

ホロコースト関連では次々と興味深いネタが掘り起こされる。短編小説の映画化となっているが、その小説が実話を基に書かれたものらしい。

ユダヤ青年ナウエル・ペレス・ビスカヤールが、護送中のトラックの中で食料と交換したペルシャ語の本を利用して自分はペルシャ人と主張して殺害を免れ、終戦後テヘランでレストランを開く意向の大尉ラース・アイディンガーに送り届けられる。
 収容所の料理の責任者である大尉は青年に単語を教えろと要求する。ペルシャ語など知らない彼は、 “囚人” たちの名前を利用してデタラメな単語を教える。そうこうするうちに大尉も青年を信頼し、何かと青年ユダヤ人説を主張する兵長ヨナス・ナイの意見を全く無視する。そんな折本物のペルシャ人が送られてきたのを知った兵長はこれが自説を証明できると意気込むが、その間もなくペルシャ人は囚人に殺される。
 やがて、追いつめられたドイツの幹部たちは収容所の証拠を焼却し、現場を去る。一早くドイツを抜け出した大尉はテヘラン空港でデタラメのペルシャ語の為に逮捕され、彼の信頼によって命を助けられたビスカヤ―ルは調査団に2000を超える囚人の名前を次々と述べていく。

デタラメな単語を憶える為に利用した名前がこういう形で役に立つのを見ると感銘を禁じ得ない。この映画のキモはここであろう。
 ユダヤ人の名前の記憶に関連するものとして思い出すのは「天才ヴァイオリニストと消えた旋律」という作品である。あちらは亡くなった人の名前が長い歌になっていた。僕が名画座の館主なら、この二本で編成しますな。

突然ペルシャ人が現れるのがサスペンス醸成に貢献するが、はっきりしない理由で囚人仲間に殺されるのはご都合主義的にすぎて難点。
 一方で、騙された結果とは言え主人公を良く扱った大尉は逮捕される。大尉は決してナチス・シンパではなく、 “ハイル・ヒトラー” を一度も言っていないのではないか? その意味で気の毒という気もするが、ナチスを嫌ってギリシャを経てイランに逃げた兄は賢い、と青年が言ったように、ナチスに与した結果と言わなければならない。

ロシアやベラルーシが製作に加わっている。彼らの祖先がユダヤ人を大量に殺した事実があり、今や世界で非難の的になっている二国にもそうしたことに罪悪感を覚える人々がいるということであろう。ロシア人が皆プーチンみたいな人であるわけはない。少数とは言え、反旗を翻して逮捕される人々がいる。

ユダヤ人は数千年に渡って悲劇の民族だったとは思うが、イスラエルのやることにはずっと眉を顰めている。温度差こそあれ、ユダヤ人の力の大きいアメリカの政府は常にイスラエルの味方をする。これは珍しく共和党も民主党も関係ない。トランプがイラン核合意から抜けたのもその関連で、却ってイランの核兵器開発の意欲を増させ、パリ協定からの脱退で中国に大きな伸張のチャンスを与えてしまった。NATO拡大を嫌がったプーチンが開戦の結果逆の目を出したように、独裁者はいつもベルを鳴らす、もとい、いつもミスをやらかす。

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