映画評「そして僕は途方に暮れる」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2022年日本映画 監督・三浦大輔
ネタバレあり

まだFMでエアチェックをしていた40年近く前ヒットした大沢誉志幸の歌の題名をイメージ・ソースとした舞台の映画化。原作戯曲、脚色、監督は全て三浦大輔。ある種の喜劇である。

フリーター藤ヶ谷太輔は、5年も同棲している恋人・前田敦子にラインの女性について追及され、抵抗せずに逃げる。逃げた先は同郷の親友・中尾明慶だが、感謝もしないことを咎められ、また逃げる。今度は先輩・毎熊克哉で、これまた逃げる羽目になる。映画研究会の後輩は彼を英雄視している為に泊めさせてくれとは言えない。仕方なく犬猿の仲である姉・香里奈の許に転がり込む。が、金の要求と勘違いされてやはり出ていく。
 結局、リューマチと闘いながら一人で暮らす北海道の母・原田美枝子の許へ。しかし、変な新興宗教を勧められた為家を出て、偶然再会した父親・豊川悦司と暮らし始める。スマホの電源を落とし世間と没交渉の生活を送ろうとするが、母親の入院を知った大みそかに家に戻る。心配した敦子ちゃんも中尾君もやって来る。姉の香里奈もいる。そこへ父親もやって来る。
 年を越して東京へ戻った藤ヶ谷君は、彼女が彼の不在の間に相談相手の中尾君と仲良くなったことを打ち明けられ、今度は初めて逃避ではない理由で部屋を出る。

現実と向き合うことなくその度に居場所を変える主人公は観客が思わず腹を立てたくなるくらいのクズぶりだが、そんな彼でさえ徹底した逃避人生を送って来た父親には呆れてその部屋から飛び出すという流れが実に可笑しい。反面教師として大クズの父親が機能した形で、その父親が見舞いに昔いた家に戻るのは、なかなか勇気のいることであったであろう・・・とご同情申し上げたくなる。

面倒臭いことからはひたすら逃げてそれが面白いことに転じることを期待するという父親のテキトーすぎる人生哲学に触れると、昔のフランス映画を見ているような気分になるが、本作に出て来る映画は寧ろ逆の理想主義者フランク・キャプラによるクリスマス・ファンタジー「素晴らしき哉、人生!」である。

主人公が少しまともになるかと思ったら、今度は向かい合う相手がいなくなる。これも因果応報的皮肉として実に残酷な可笑し味が醸成される。これに懲りて主人公は少しまともになると良いですがね。

同姓同名同字の監督その2(もう一人はプロ野球の監督をしている)。その1は鈴木雅之。

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