映画評「ノック 終末の訪問者」

☆☆★(5点/10点満点中)
2023年アメリカ=日本=中国合作映画 監督M・ナイト・シャマラン
ネタバレあり

先日の「バビロン」もそうであったように、キリスト教や聖書を一通り知っていた方が楽しめるという洋画は少なくない。M・ナイト・シャマランのサスペンスである本作もその類で、キリスト教の考えに基づく終末論映画に近いものの、そうとは言い切れない。

ゲイのカップル(ジョナサン・グロフ、ベン・オルドリッジ)と東洋系養女(クリステン・ツイ)が夏休みを過ごす山小屋に、4人組の男女(デイヴ・バウティスタ、ニキ・アムカ=バード、アビー・クイン、ルパート・グリント)が現れ、三人に対し “家族から一人選んで殺さないと世界の市民が滅亡する" と告げる。
 理不尽な要求だが、態度をはっきりさせないうちに彼らは仲間の一人を殺す。TVには地震後の津波についての報道がなされている。翌日になっても抵抗を続けるうち、今度は仲間の女性を一人殺す。TVには制御不能になった飛行機が次次と落下する信じがたい様子が映し出される。
 そんなものは事前に知った情報を使ったもので、仲間に以前にもめた男(に似た人物?)がいたものだから、示し合わせて復讐にやって来たのだろうとゲイ夫婦は結論づけようとする。が、一人はこの4人組が見たという予知夢に感じるものあり、娘を遠ざけて一定の結論が出そうになる。

よくある一家なり個人が一軒家で侵入者に対して抵抗するサスペンスのヴァリエーションで、そこに終末論的な内容を結び付けたものである。インテリ・カップルが四人を黙示録の四騎士に見立てるのもその一環だが、原作者やシャマランはについてはともかく、この四人自体は実は終末論者でもキリスト原理主義者でもなさそうなのである。それがこの映画のミソで、結局提示された謎は殆ど何も解明されないまま収斂していく。

説明不足を難詰する鑑賞者が多い。説明不足という感覚は正しいが、難詰することは不当。説明不足は狙いである。理に落とさず観客をもやもやさせるのが目的なのである。説明不足の映画と説明不足を目的とする映画の区別は、映画鑑賞の実績が多い人のほうがしやすい。

とは言え、純粋なサスペンスとして面白いかと問われれば、余り肯定的にはなれない。直接的な暴力を極力見せないのは良い手だが、それでアルフレッド・ヒッチコック監督「フレンジー」のように純粋にサスペンスが高まるわけでもない。寧ろはったりという印象を醸成しかねない。

結論として、僕は元来シャマランを評価してこなかったほうだが、彼のフィルモグラフィーの中で特段良いとも悪いとも思わない。

週末の訪問者のほうが良いですね。

この記事へのコメント

2023年11月09日 22:25
よくわからなさ=得体のしれない怖さなどを狙っていそう。
シャマランだからと、もう先入観で世間の眼のハードルが上がったり(下がったり?)するのは、かわいそうな気もしますが(苦笑)。
はっきりしないままのほうが、いろんな解釈ができて、おもしろいですよね。
オカピー
2023年11月10日 21:38
ボーさん、こんにちは。

>シャマランだからと、もう先入観で世間の眼のハードルが上がったり

それはありますわいね。
僕は世間よりハードルが低いですが。