映画評「エレメント・オブ・クライム」

☆☆★(5点/10点満点中)
1984年デンマーク映画 監督ラース・フォン・トリアー
ネタバレあり

僕が観た一番古いラース・フォン・トリアー作は1996年の「奇跡の海」なので、1984年発表の本作は初見である。長編第一作との由。

刑事フィッシャー(マイケル・エルフィック)は、自国での仕事で精神的ショックを受け、戻ったカイロで精神科医の治療に臨む。
 催眠治療の中で、欧州に戻った彼はくじ売り少女連続殺人を捜査、犯人の行動をなぞる恩師オズボーン(エズモンド・ナイト)の理論に則って行動する。3年前の類似事件の犯人ハリー・グレイに目星をつけ、その行動を追って東洋系娼婦キム(ミーミー・レイ)と交流するうち、オズボーン同様に所在不明のハリーの代りに彼が考えたと導き出された犯行計画を完成させる。

一種のハードボイルド映画で、それにサイコ映画の要素を加えて、木乃伊取りが木乃伊になる図式にはめ込んだ内容。
 全体の話は理解できなくもないが、独り合点も多い。猿(スローロリス?)を見出す幕切れは、彼が未だ悪夢の中にいるという解釈で間違いないだろうが。

作品世界はカフカのような不条理感があり、大半をセピア色に染められた準モノクロのような画面は表現主義のドイツ映画やエリッヒ・フォン・シュトロハイムのサイレント映画を想起させる。水がよく出て来る内省的な映画という意味でアンドレイ・タルコフスキーの「ストーカー」(1979年)を思い出させたりもする。

こういう表現主義的な映画はドイツ以北がお得意とする感じ。

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