映画評「Dr. コトー診療所」
☆☆★(5点/10点満点中)
2022年日本映画 監督・中江功
ネタバレあり
20年くらい前に放映されたこの題名のTVドラマの存在は知っていたが、中学時代以降殆どドラマを見たことがない僕は見なかった。2006年の第2期以来16年ぶりの続編に当たる劇場版。余分なものを付けなかったタイトルが実に潔い。
この映画がWOWOWが初放映する前日に偶然にもNHKが「ファミリー・ヒストリー」という番組で吉岡秀隆を扱ってい、彼の祖父が歯科医、夢半ばで戦死した伯父が医師志願であると紹介され、Dr. コトーを演ずることになった吉岡君も縁だったのかと感慨にふけっていた。
舞台は八重島諸島の志木那島(架空)。 壮年になったDr. コトーこと後藤(吉岡)は、結婚した看護婦の星野彩佳(柴咲コウ)との間に3か月後に子供を迎える予定である。足に重傷を負った島民の猟師・原勝利(時任三郎)に対し、東京から研修にやって来たばかりの若手医師織田(高橋海人)の協力を得て、見事に処理を施す。
彼は自らの急性白血病を疑うが、織田以外に誰にもその事実を知らせず、倒れてから初めて周囲に語る。
その頃台風が島に接近、島民たちが次々と負傷し、あるいは重病を悪化させて診療所に担ぎ込まれる。主人公は、重態の身をおしてトリアージ(治療の優先度、この映画の状況では助かりそうもない患者を見捨てること)をせず蘇生や手術に奔走する。
一見(いちげん)さんの僕には、人物紹介も半ば兼ねた序盤がなかなか調子が良く感じられる。しかるに、医大を中退した勝利の息子・剛洋(富岡凉)が島に戻って来てからバタバタし始め、台風騒動で大仰になり過ぎる為、僕は相当鼻白んだ。
台風接近で避難所と診療所とを往来し、 次々と運び込まれる負傷者に加え、よく知る老人たちが膵臓がん、あるいは心筋梗塞で倒れる中、Dr. コトーが病気で重症の身を押して働く様子からして、現実と照らすと少々やり過ぎなのだが、これは良しとしても、彩佳に早産を起こさせて身動きを奪ってしまうのはそれこそやり過ぎ。そのせいなのか登場人物が呆然として誰一人倒れた先生を助けようとしないのに、今度は鑑賞者の僕が呆然とする。TVドラマらしい作りとはこういうものなのか?
反面、映画ファンとしては、どんでん返し的な幕切れは良いと思う。何の思い入れもない僕が言っても説得力がないが、Dr. コトーを殺しては落ち着きが悪い。但し、それまでの人々の明るい様子から彼の死ななかったことが事前に予想されてはいる。
また、主人公のトリアージしない理想主義的なスタンスは、ヒューマンで精神衛生的によろしい。現実社会がどうにもやりきれないので、映画の中くらい救いがあっても良いではないかと思う。
台風騒動を批判したものの、現実は小説より奇なり、というくらい物凄い騒動を僕は知っている。現実の方が現実的でなかったりするのだから、こんなことは現実的でないとはなかなか言えない。でも、一応批評のスタンスとして幅を広げ過ぎてもいけないだろうということで。
2022年日本映画 監督・中江功
ネタバレあり
20年くらい前に放映されたこの題名のTVドラマの存在は知っていたが、中学時代以降殆どドラマを見たことがない僕は見なかった。2006年の第2期以来16年ぶりの続編に当たる劇場版。余分なものを付けなかったタイトルが実に潔い。
この映画がWOWOWが初放映する前日に偶然にもNHKが「ファミリー・ヒストリー」という番組で吉岡秀隆を扱ってい、彼の祖父が歯科医、夢半ばで戦死した伯父が医師志願であると紹介され、Dr. コトーを演ずることになった吉岡君も縁だったのかと感慨にふけっていた。
舞台は八重島諸島の志木那島(架空)。 壮年になったDr. コトーこと後藤(吉岡)は、結婚した看護婦の星野彩佳(柴咲コウ)との間に3か月後に子供を迎える予定である。足に重傷を負った島民の猟師・原勝利(時任三郎)に対し、東京から研修にやって来たばかりの若手医師織田(高橋海人)の協力を得て、見事に処理を施す。
彼は自らの急性白血病を疑うが、織田以外に誰にもその事実を知らせず、倒れてから初めて周囲に語る。
その頃台風が島に接近、島民たちが次々と負傷し、あるいは重病を悪化させて診療所に担ぎ込まれる。主人公は、重態の身をおしてトリアージ(治療の優先度、この映画の状況では助かりそうもない患者を見捨てること)をせず蘇生や手術に奔走する。
一見(いちげん)さんの僕には、人物紹介も半ば兼ねた序盤がなかなか調子が良く感じられる。しかるに、医大を中退した勝利の息子・剛洋(富岡凉)が島に戻って来てからバタバタし始め、台風騒動で大仰になり過ぎる為、僕は相当鼻白んだ。
台風接近で避難所と診療所とを往来し、 次々と運び込まれる負傷者に加え、よく知る老人たちが膵臓がん、あるいは心筋梗塞で倒れる中、Dr. コトーが病気で重症の身を押して働く様子からして、現実と照らすと少々やり過ぎなのだが、これは良しとしても、彩佳に早産を起こさせて身動きを奪ってしまうのはそれこそやり過ぎ。そのせいなのか登場人物が呆然として誰一人倒れた先生を助けようとしないのに、今度は鑑賞者の僕が呆然とする。TVドラマらしい作りとはこういうものなのか?
反面、映画ファンとしては、どんでん返し的な幕切れは良いと思う。何の思い入れもない僕が言っても説得力がないが、Dr. コトーを殺しては落ち着きが悪い。但し、それまでの人々の明るい様子から彼の死ななかったことが事前に予想されてはいる。
また、主人公のトリアージしない理想主義的なスタンスは、ヒューマンで精神衛生的によろしい。現実社会がどうにもやりきれないので、映画の中くらい救いがあっても良いではないかと思う。
台風騒動を批判したものの、現実は小説より奇なり、というくらい物凄い騒動を僕は知っている。現実の方が現実的でなかったりするのだから、こんなことは現実的でないとはなかなか言えない。でも、一応批評のスタンスとして幅を広げ過ぎてもいけないだろうということで。
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