映画評「西部無法伝」

☆☆★(5点/10点満点中)
1971年アメリカ映画 監督ポール・ボガート
ネタバレあり

リー・ヴァン・クリーフ主演のマカロニ・ウェスタンに「西部悪人伝」(1970年)という似た邦題の作品がある。これは先年ブログにも上げたし、保存版も作ってあるので、それと混同して今回うっかり見損なうところだった。危ない危ない。後年の為にこういう似た邦題は止めてほしい。珍しく初鑑賞。

南北戦争直前の西北部。ジェームズ・ガーナーが金の工面に迫られて泣く泣く自分の奴隷ルー・ゴセットを売る。ところが、売られたはずのゴセットが逃げ出してガーナーに合流する。二人はこの手の奴隷売買詐欺で稼いできたという次第。

そこにこの二人も引きずり回される美人ペテン師スーザン・クラークが加わり、コン・ゲームに近い展開をするコメディーだが、それに関しては後年のコン・ゲーム映画のように徹底されない。
 というのも、この男女が喧嘩友達ならぬ喧嘩恋人的な関係になっていることを途中から匂わすからで、ラスト・シーンもそういう理解で良いと思う。

さて、後半は、二人のペテンが失敗してゴセットが本当の奴隷の身になってしまい、それをガーナーがスーザンと協力して伝染病治療の医師に扮して奪還を図ろうとするというお笑い。
 しかるに、アフリカからの新しい奴隷たちと協力し合うという流れは真面目すぎはしないか?

この頃台頭したブラック・パワーを意識したブラック・コメディー西部劇と言って良い。しかし、面白くなりそうで大して面白くない。面白くない、と言うより可笑しくない。
 クライマックスで笑いを忘れてしまう脚本の半端さに加えて、「夕陽に立つ保安官」(1969年)などそれまでガーナー主演の西部劇コメディーを担当してきた、この手がうまいバート・コメディーもといバート・ケネディーの代わりにポール・ボガートが監督をやっているせいもあるだろう。話は早く進むが、場面場面が案外冗長なのである。この辺りについては双葉十三郎先生のコメントを俟つまでもない。

チコちゃん曰く、ボガートしてるんじゃねえよ。

この記事へのコメント

蟷螂の斧
2023年11月15日 18:42
先日BSから「西部無法伝」を見ました。出演者はジェームズ・ガーナー、ルイス・ゴセット・ジュニア、スーザン・クラークなどです。面白かったです。
1857年の西部が舞台。奴隷制度の賛成派と反対派の争いも出てきます。そして、字幕を見ると準州と自由州と言う言葉がよく出てきました。
オカピー
2023年11月15日 18:50
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>面白かったです。

面白い(興味深い)けれど、コメディーとしては笑えなかったというところです。

>奴隷制度の賛成派と反対派の争いも出てきます。

南北戦争の予感を匂わせていますね。
こういうのはお笑いにはちょっと真面目すぎますけど。

>字幕を見ると準州と自由州と言う言葉がよく出てきました。

アメリカの州の歴史を知らないと、ピンと来ない部分があります。

逆に、欧米人が日本の幕末ものを見た時、状況に詳しくないと、お話の部分で面白がりきれないという感じがあるでしょうね。
蟷螂の斧
2023年11月16日 19:14
こんばんは。

>「西部無法伝」をアップしましたので、そちらにコピペし、レスします。

ありがとうございました。昭和50年頃だったでしょうか?テレビドラマ『ロックフォード氏の事件メモ』(吹替版)が日本で放映されて大人気でした。主演はジェームズ・ガーナー。吹替は名古屋章。
そして、その頃この「西部無法伝」吹替版がテレビで放映されました。家族で見ました。面白かったです!特にジェームズ・ガーナーが刑務所に入っている場面。
看守「おい。奥さんがお前に会いに来たぞ。」
ガーナ―(名古屋章さんの声で)「奥さん!?私に奥さんなんていたっけ?」
もう大笑いしました!そして、あれから50年近くもたってBSで英語版を見る事が出来て嬉しかったですね~!

>アメリカの州の歴史を知らないと、ピンと来ない部分があります。

仰る通りです。そう言う僕もそのあたりは詳しくなくて・・・(汗)。見終わってから、ネットで準州・自由州・奴隷州の事を調べました。

>この辺りについては双葉十三郎先生のコメントを俟つまでもない。

双葉十三郎先生、辛口でした(苦笑)。特に後半です。
オカピー
2023年11月16日 21:34
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>ネットで準州・自由州・奴隷州の事を調べました。

僕は調べもしませんでしたよ^^;
ルー・ゴセット(ルイス・ゴセット・ジュニア)が演じたのは、所謂自由黒人ですね。
黒人は奴隷ばかりと思っていると、大間違いということですね。

>双葉十三郎先生、辛口でした(苦笑)。特に後半です。

僕は双葉師匠の娯楽映画に対する考えをマスターしていると自負しています。実際、僕が事前に思ったことがほぼそのまま書かれていました^^v
蟷螂の斧
2023年11月17日 17:54
こんばんは。

>実際、僕が事前に思ったことがほぼそのまま書かれていました^^v

オカピー教授の感性はやはり素晴らしいです。

>黒人は奴隷ばかりと思っていると、大間違いということですね。

僕も、当時アメリカにいる黒人は全て奴隷だったのかなと勘違いしていました。情けないです。

>バート・コメディーもといバート・ケネディー

うまい!(座布団一枚) 
バート・ケネディー監督ならば、どのようなストーリー(特に後半)にしたでしょうか?
オカピー
2023年11月17日 18:34
螂の斧さん、こんにちは。

>オカピー教授の感性はやはり素晴らしいです。

感性は大したことないと思います。
自分で言うのも何ですが、何十年もかけてやって来た研究の賜物でしょう。
大学生の時は、☆★が夢に出てきましたよ^^

>バート・ケネディー監督ならば、どのようなストーリー(特に後半)にしたでしょうか?

お話に絡むとしたら、アフリカから来たばかりの連中との珍妙なやり取りをもっと生かして、白人をぎゃふんを言わせる感じでしょう。

奴隷売買医詐欺行脚というのは悪くないアイデアでした。
ポール・ボガートは、やはり呼吸(お笑いで言う間でしょうか)が良くない。ガーナーとゴセットとのやり取りなどもっと字余り・字足らずなく見せればぐっと可笑しくなったでしょう。
ボガートにコメディーのセンスはなさそう。