映画評「映画 イチケイのカラス」
☆☆★(5点/10点満点中)
2023年日本映画 監督・田中亮
ネタバレあり
今月2本目のTVドラマの劇場版。TV版は勿論知りません。裁判官が主人公のドラマである。
舞台は、岡山の秋名市(例によって架空)とその界隈。
地方裁判所裁判長・入間みちお(竹野内豊)が、イージス艦と貨物船が衝突事件の後、船長の妻が防衛大臣(向井理)に刃を向けた事件を担当するが、防衛省側はイージス艦の航海記録が紛失したと称し、事件の背景は闇に葬られる。
その頃、研修で2年間の弁護活動をすることになった裁判所第一刑事部判事の坂間千鶴(黒木華)は、老婦人ゴールド免許失効事件を担当する。この小さそうに見える事件の後、彼女は、人権派の月本弁護士(斎藤工)と組んで、現実の日本でも大きな問題になっているフッ素化合物(PFAS)の環境問題を調べている。それが原因と思われる病気を患っている11歳の少年の父親の原告代理人となったからである。が、証拠を出したものの、被告シキシマ株式会社側は強力な反証を出して来た為刑事事件訴訟はここで終わる。
戦いの場を民事に移した彼女は、月本が殺害される事件にショックを受けた後自宅に放火される。
さて裁判の行方は・・・というお話で、水俣病事件ほど深刻にはならないだろうが、アメリカ映画「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」で取り上げられ、現在日本でも全国的な問題になりつつあるフッ素化合物(PFAS)汚染をテーマにした際物(事件間際の物語)の類である。
ここに出て来た事件は相互に関連することが判明するという展開はミステリー的にそれなりによく考えられている。企業側を必ずしも悪党にせず、地方都市の生存に関わる問題を提示していることを考えると、「ダーク・ウォーターズ」と違って社会派というよりはヒューマン映画と言うべきである。
現実問題として、自治体維持に関わる地方自治体の首長におかれては、原子力発電のように住民を二分するような事案にはなるべく関わり合わないことを進言したい。環境汚染について(それが実際にある場合)企業側の味方をした場合、住民は長い目で見るとバカを見る。多くの住民が癌を発症して人口減少でもしたら元も子もないではないか。
映画としては、TVドラマの映画版に良くある、前半のお笑いへの傾倒が良くない。最終的にシリアスに収斂していくのが解り切っているこういう映画に、ユーモアを越えたギャグを繰り出すのは禁物である。トーンが一貫しないという審美学的な問題だけでなく、大概冗長に陥る。実際、この映画でも開巻後三分の一くらいは遊び過ぎて退屈だが、後半何とか挽回してぎりぎり水準という印象に収まった。
裁判長の人間像が微笑ましいのも最終的にはプラスでした。
2023年日本映画 監督・田中亮
ネタバレあり
今月2本目のTVドラマの劇場版。TV版は勿論知りません。裁判官が主人公のドラマである。
舞台は、岡山の秋名市(例によって架空)とその界隈。
地方裁判所裁判長・入間みちお(竹野内豊)が、イージス艦と貨物船が衝突事件の後、船長の妻が防衛大臣(向井理)に刃を向けた事件を担当するが、防衛省側はイージス艦の航海記録が紛失したと称し、事件の背景は闇に葬られる。
その頃、研修で2年間の弁護活動をすることになった裁判所第一刑事部判事の坂間千鶴(黒木華)は、老婦人ゴールド免許失効事件を担当する。この小さそうに見える事件の後、彼女は、人権派の月本弁護士(斎藤工)と組んで、現実の日本でも大きな問題になっているフッ素化合物(PFAS)の環境問題を調べている。それが原因と思われる病気を患っている11歳の少年の父親の原告代理人となったからである。が、証拠を出したものの、被告シキシマ株式会社側は強力な反証を出して来た為刑事事件訴訟はここで終わる。
戦いの場を民事に移した彼女は、月本が殺害される事件にショックを受けた後自宅に放火される。
さて裁判の行方は・・・というお話で、水俣病事件ほど深刻にはならないだろうが、アメリカ映画「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」で取り上げられ、現在日本でも全国的な問題になりつつあるフッ素化合物(PFAS)汚染をテーマにした際物(事件間際の物語)の類である。
ここに出て来た事件は相互に関連することが判明するという展開はミステリー的にそれなりによく考えられている。企業側を必ずしも悪党にせず、地方都市の生存に関わる問題を提示していることを考えると、「ダーク・ウォーターズ」と違って社会派というよりはヒューマン映画と言うべきである。
現実問題として、自治体維持に関わる地方自治体の首長におかれては、原子力発電のように住民を二分するような事案にはなるべく関わり合わないことを進言したい。環境汚染について(それが実際にある場合)企業側の味方をした場合、住民は長い目で見るとバカを見る。多くの住民が癌を発症して人口減少でもしたら元も子もないではないか。
映画としては、TVドラマの映画版に良くある、前半のお笑いへの傾倒が良くない。最終的にシリアスに収斂していくのが解り切っているこういう映画に、ユーモアを越えたギャグを繰り出すのは禁物である。トーンが一貫しないという審美学的な問題だけでなく、大概冗長に陥る。実際、この映画でも開巻後三分の一くらいは遊び過ぎて退屈だが、後半何とか挽回してぎりぎり水準という印象に収まった。
裁判長の人間像が微笑ましいのも最終的にはプラスでした。
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