映画評「サイド バイ サイド 隣にいる人」

☆☆★(5点/10点満点中)
2023年日本映画 監督・伊藤ちひろ
ネタバレあり

伊藤ちひろなる監督の作品を観るのは初めて。女性監督は尽く映画作家であると思うが、本作は川瀬直美とテレンス・マリックを合わせたような、少々形而上的な内容である。

坂口健太郎は現在、4歳くらい娘・磯村アメリを抱えたシングル・マザーの看護婦・市川実日子を恋人のようにして日々を過ごしている。接する人を通してそこにいない人の思いを感じたり、あるいは亡霊や生霊を見たりすることができる。幼女にもその力があるようで、主人公と同世代の青年・浅香航大がその隣にいるのを見る。
 彼は現在ロック・デュオをやっている坂口君の後輩で、彼がいなくなった後面倒を見て来た当時の恋人・齋藤飛鳥を彼に押し返す。彼女は妊娠してい、浅香としてはお荷物になっていたのだろう。
 かくして坂口は彼女を引き取り、彼が住んでいた古い屋敷から、やがて恋人の家で住むことになる。可愛らしい幼女が彼女を慕った効果か、彼女は徐々に生気を取り戻す。
 彼女が子供を産んで暫くして、彼は流れ着いたという青年・井口理と出会い、自分は姿を消す。

大体こんなお話だが、最後の10分がなかなか解りにくい。
 井口は恐らく生霊か亡霊で、それを受けたこの最後の10分では恐らく主人公も生霊として登場している。牛に引っ張られていた彼は牛がカメラの前を横切ると、もう姿が見えない。

作者がこの映画を通して何が言いたかったのかはよく解らない。ただ、僕の目には、主人公は他の人を癒している時に実は自分が癒されていたように映る。人を癒すことが自分を癒す結果をもたらす、そんな感じである。

いずれにしても一つの場所で役目を終えると、彼は他所へ移っていくのである。その意味で彼は天使なのではないか。市川実日子がテレンス・マリックの登場人物のように顔を上げ空を見た後、カメラが仰角になるのは、その暗示のような気もするが、今のところこれは僕の勝手な合点に過ぎない。
 現状では、環境映画的に見ておく。

トンネルが異界との境という意見もありまする。

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