映画評「海底軍艦」

☆☆★(5点/10点満点中)
1963年日本映画 監督・本多猪四郎
ネタバレあり

WOWOWによる東宝特撮映画シリーズが続きます。ご興味のない方々、もう少し我慢をお願いします。

題名から想像されるように、6,7年前に僕も読んだ押川春浪の児童小説「海島冒険奇譚 海底軍艦」に着想を得た。押川作は明治時代に書かれた、ロシアを敵とする空想小説で、お話として本作と似たところはない。

広告写真家の高島忠夫と助手の藤木悠が、偶然見かけた美人秘書・藤山陽子を追ううち、結果的に彼女と上司・上原謙の拉致を阻止する。犯人は地下に存在し続けていた超古代文明ムウ帝国の工作員23号。
 ムウ帝国は上原の軍人時代の部下・田崎潤が南洋の孤島で開発している海底軍艦の製造を止めさせるように人類に通告するが、応じないと知るや、その大きな動力源を使って世界各地を陥没させていく。
 事件の対応に消極的だった上原も、警察に捉えられた謎の人物が田崎の部下と知って、彼を案内人に高島らと共に基地のある孤島へ向かう。小野田少尉のように孤島に部下と共に生き残っていた田崎は日本復興の為に軍艦はあるのだと拒否し続けるが、やがてその意義に得心し、冷線砲でムウ帝国の守護神たる海竜マンダを倒し、軍艦の先端についているドリルで動力源基地に風穴を開ける。

今回の東宝特撮映画に対してはずっと同じ採点しかして来なかったが、これは★一つ余分に付けたい気になった。ジュール・ヴェルヌのような冒険譚で、他の作品より只管(ひたすら)無邪気な感じがするのが良いのである。

何と言っても最大の魅力は、水陸空のどこでも自在に動ける軍艦で、ドリルや冷線砲といった装備類も楽しい。しかるに、所謂怪獣と違ってボディスーツというわけには行かなかったらしい海竜の動きとサイズ感はさすがに不自然。

ドラマ部分については、東宝特撮映画の例に洩れずご都合主義が目立ち、満足というわけには行かない。
 人類学的に見れば、地上人より文明が発達している筈のムウ帝国人が、4000年くらい前の古代エジプト人と似た格好をし、女帝(小林哲子)を宗教的に崇拝するのは可笑しい(文明が発達すれば、死の克服に近づくので、死の恐れがベースにある宗教の類は衰える)が、こういうのは笑って見ていれば良いだろう。

「海島冒険奇譚 海底軍艦」の最初の部分を角書(つのがき)と言い、あいうえお順の文学事典等では表面的に記されてもこの部分はないものとして扱われる。二葉亭四迷「浮雲」の角書は “新編”。

この記事へのコメント