映画評「崖上のスパイ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2022年中国=香港合作映画 監督チャン・イーモウ
ネタバレあり

1934年の満州を舞台にしたスパイ・サスペンスである。監督はチャン・イーモウ。久しぶりに大型ジャンル映画で力を発揮していると思う。

ソ連で訓練を受けた共産党員の男女四人チャン・イー&チン・ハイルー(夫婦)、チュー・ヤーウェン&リウ・ハオツン(恋人たち?)が、日本の秘密施設から脱走した同志の脱走を助ける使命を負って、ハルピンにやって来る。

反共の特務係が監視する列車に乗ってハルピンに潜入する序盤のシークエンスがスリリング。「バルカン超特急」(1938年)「007/ロシアより愛をこめて」(1963年)など列車を上手く使ったスパイものは面白くなる。

以降、コンビを入れ替えてチャンとハオツン、チューとハイルーが第1班・第2班となって別々に行動し、特務係との駆け引きを演ずることになる。
 特務係には実は共産党の工作員がもぐりこんでいて、彼の働きで彼らの行動は比較的順調に行くのだが、特務係は内通者の存在に気付いて、4人の作戦阻止以上にその人物の特定に注力していく。

チャップリンの「黄金狂時代」(1925年)がかかっている映画館を利用したスパイの接触もなかなか面白い。

しかるに、全体として、男性陣が我々日本人に、特に僕のように映像記憶が余り良くない人間には区別しにくい為に、サスペンスが100%機能しているとは言い難いところが少なくない。今回はそのマイナス面を半分くらい無視して採点している。ダイナミックで美しい撮影により映画的魅力に富んでいるのを買いたいわけである。

最後の共産党絡みの字幕は甚だ無粋である為、要らない。かく共産党にゴマをすらないと映画を作らせてもらえないのか。

作戦名はロシア語でウートラ(утро)=朝。ロシア語で “お早う” は、ドーブラエ・ウートラと言う。意味は good morning と同じ。

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