映画評「Aサインデイズ」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1989年日本映画 監督・崔洋一
ネタバレあり

1968年頃から1972年の沖縄を舞台にした音楽青春映画。
 監督の崔洋一は「月はどっちを向いている」(1993年)で名前を憶えた。映画デビュー作「十階のモスキート」は有名ながら未見。録画したので近日中に観ます。

後半の中盤くらいまでは米国占領下で、Aサインというのは、アメリカから店舗に与えられる営業許可証のこととの由。知らなかったなあ。

Aサインを得たバーで演奏しているのが、アメリカのロックをコピーする4人組バンド。リーダーはベース兼リード・ヴォーカルの石橋凌で、彼らに興味を持つうち17歳の混血美少女・中川安奈は彼の子供を宿して結婚する。母親・中尾ミエは突然夫のいるアメリカに渡り、1971年に死んで帰国する。
 彼らは、ベトナム戦争で気持ちが落ち着かず甚だ荒っぽい出征前の米兵たちの前で演奏、年がら年中喧嘩に発展して、大地康雄の店長はMPを懐柔するのに懸命である。彼は安奈ちゃんの魅力を見出し、音感が決して良いとは思われない彼女をリード・ヴォーカルに据えて売り出す。

ここではしつこいまでにクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル(CCR)の歌唱で有名な「スージーQ」(オリジナルはデイル・ホーキンズだが、当然CCRのバージョンをコピーしている)を聞かされる。崔監督のねちっこさを感じる場面だ。

彼女は血まで吐いて懸命に歌う。
 しかし、沖縄が日本に返還される直前、アート・ロックやプログレッシヴ・ロックが持てはやされる時代の変化に追いつけないリーダー石橋の為にバンドは空中分解、今や二人の子持ちになった石橋は返還後の沖縄でダンプ運転士に転職する。交通事故で重傷を負った後周囲の音楽絡みの雑音に苛立ちを禁じ得ないが、やがてマネージャー的にバンドを支援する境地になる。

大体こんなお話で、利根川裕が沖縄の女性ロック・シンガー喜屋武(きゃん)マリーに取材した伝記小説「喜屋武マリーの青春」を原作とする。ベトナム戦争に行き詰っていたアメリカの占領下にある沖縄の社会ムードを感じることができるところが収穫だろうか。

作品の立場は、彼らの青春を成り立たせたものとしてアメリカ占領を郷愁をまじえ半ば肯定的に捉えているように思える。でなければ石橋が米ドルを壁に貼り付けたりするシーンは見せないだろう。

沖縄の大衆にとってアメリカの占領は愉快ではなかっただろうし、返還後の本土の態度も決して愉快ではないだろう。辺野古は金をかけて使い物にならない基地になるような気がする。保険証廃止がマイナカード普及への触媒にすぎなかったのにやがて目的化したのに似て、いつの間にか安全という本来の意味を失って辺野古建設自体が目的となってしまった。日本は走り出したら止まれない。

この記事へのコメント