映画評「十階のモスキート」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1983年日本映画 監督・崔洋一
ネタバレあり

崔洋一の監督デビュー作。

内田裕也は巡査(係長)から出世できず、妻・吉行和子には中学生の娘・小泉今日子を連れ去られる。
 その鬱屈を当時流行り始めたパソコンでのソフト作りに晴らそうとし、その為に必要となった費用と元妻子に送る養育費の為に、足繁く通う競艇で当たりも出ず、遂にサラ金に手を出し、やがてその返済の為に別のサラ金から借りるという自転車操業状態に陥る。
 並行して性欲を抑制することが出来ず、万引き女アン・ルイスに始まり、スナックの女給・中村れい子に始まり、女性警官・風祭ゆきにも手を出し、やがて前妻にまで襲撃をしかける。
 かくして精神耗弱状態になった彼は、制服を着たまま、郵便局で強盗を働く。

出世街道から外れた警官の転落物語で、感情を余り出さず、内心何を考えているかよく解らないアナーキーな人間を演ずることが多い内田裕也を観るべき映画だろう。

崔監督は描写がねちっこく、ポルノ的な場面をもっと端折ってスピードを出せば物語はもっと面白くなったはずだが、逆にねちっこさから生まれるどろどろしたムードを楽しむのが本作の正しい見方と思う。
 まともな精神状態ではない主人公が郵便局を目掛けて走る様子を延々と見せる終盤のシークエンスなど崔監督の面目躍如だろう。

出世と収入だけが人生の全てではないのだけれどねえ。糟糠の妻に当たれば彼が犯罪者になることはなかっただろう。

この記事へのコメント