映画評「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」

☆☆(4点/10点満点中)
2023年日本映画 監督・入江悠
ネタバレあり

ここのところ観て来たTVドラマの映画版は、TV版を見ていなくてもそれなりに楽しめたが、本作はTVを見ていない人に余り親切な作りではないような気がする。

江口洋介が社長=所長を務める探偵事務所で働く妙齢美人・広瀬すずは、実はゲノム編集ベイビーである為特殊な才能を持っているが、近頃社長と自分を同僚・櫻井翔が監禁した挙句に社長を刺殺する悪夢を見続け、次いで親しい人々が次々と殺される悪夢を見る。その夢の中で登場してきた【窓】という名刺を持つ謎の男・佐藤浩市が現実に殴殺される。彼は彼女が亡父の残した研究データを持っていることで夢の中で脅迫をした男である。
 やがて、偶然彼女が借りることにした部屋で電磁検波器が激しく反応、部屋に見せたい夢に導く装置が隠されていることを掴んだ後、ジャーナリストの叔母・真木よう子が刺殺される。
 ここから探偵事務所は、ゲノム編集のデータを狙っている富裕層御用達のグループを罠に嵌めて前線部隊を一網打尽にする。しかし、直後に彼女らと親しい警官3人が悪夢通りにトラックに衝突される。
 すずちゃんは(夢の中でさらに)別の世界に入る能力を発揮してその拠点を突き止め、見せられた悪夢を逆手に取って壊滅を図る。

大体こんなお話のSFサスペンス仕立てだが、不明な箇所が多い。
 殺されたところを見ると佐藤は陰謀側っぽく見えて陰謀側にはないのだろう。
 彼女に解決をヒントを与えてくれる同世代の橋本環奈との関係が(TVを見ていない人に)よく解らないのはまだ良いが、真木よう子刺殺の謎は解決されたのか? オートバイを駆ってパイプで佐藤を殺した同一(に見える)グループが何故刺殺という手段を取ったのかという、登場人物が提示した謎である。
 佐藤も彼女もゲノム編集技術を富裕層に悪用させないという目的では同じらしいが、二人の関係もよく解らず、犯行グループが二つあるのか、僕には把握できない。

モヤモヤして終わるのを措いても、一種のディストピアSF的な設定とかなり現実的な探偵事務所という組合せが違和感が多く、ギャグを時々繰り出すTVらしい設計も落ち着かず好かない。こういう見せ方は、前半と後半とで全然性格が変わるものほど悪くないわけだが、人の死が何度も出て来る映画には似つかわしくないような気がする。

現実の社会で既に実現を見たゲノム編集のデータがそれほど特殊で貴重なものとは思えず、無駄に大騒ぎしている印象が否めないの最大の難点だろう。寧ろゲノム編集の肝は技術そのものではなく、それを実行するか否かという倫理にあるのが常識であるはずだ。

この手のややこしいお話は老骨にはなかなか追いつかないという問題もありますがね。

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