映画評「幻滅」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2021年フランス=ベルギー合作映画 監督グザヴィエ・ジャノリ
ネタバレあり
オノレ・ド・バルザックの叢書 “人劇喜劇” のうちでも長い部類の「幻滅」は2年前に読んだばかり。その大作の途中までを映画化した本作は、その範囲において大体そのままである。
貴族の母と薬屋の父の間に生れた才能あふれる若い詩人リュシアン(バンジャマン・ヴォワザン)は、地元の名士であるバルジュトン公爵の夫人ルイーズ(セシル・ド・フランス)と恋仲になり、田舎暮らしで鬱屈していたルイーズと一緒に一旗揚げようとパリへ向かう。
しかし、彼は詩集を巡る出版界に現実にがっかり、そこに加えて母の貴族名を名乗っても田舎者につき社会から激しく馬鹿にされるが、新聞の文芸欄記者として極端な意見を出すことで文壇を大きく影響を与えることで、少なからぬ報酬と地位を得ることが出来ると知って邁進、売れっ子女優コラリー(サロメ・ドウェールズ)とも懇ろになり、言わば世間の垢に染まっていく。
しかるに、ルイーズの従姉デスパール侯爵夫人(ジャンヌ・バリバール)に悪計にまんまと嵌って、貴族の名前の正式な獲得はならず記者の地位をも失って絶望のうちに帰郷の途に就く。
原作ではこの後色々とあるが、映画はここまで。文壇に出ようと地方出身の平民(ハーフではあるが)が悪戦苦闘して半ば成功したものの、都会の悪党たちの前に翻弄されて沈んでいく、という一番重要な主題の把握においてはそれ以降は不要だから、これで良い。
ほぼそのまま現在にも通用する話。真摯な批評など意に介さずスキャンダラスな内容で文士の将来を左右し、あるいはお金で成功・失敗が分かれる様子は、ある意味、ネット上の誹謗中傷やフェイクで有名人も一般人も四苦八苦する現在以上に壮絶なところがあるかもしれない。
美術や衣装が物凄く豪華というわけではないが、画面の周囲を少々暗くした画面がクラシックで、復活した王政と共和制の間を彷徨して混沌とする19世紀前半(1820年頃?)のフランス社会の生き馬の目を抜くような苛酷なムードをうまく醸成しているような気がする。
バルザック好きのフランソワ・トリュフォーが長生きしていたら映画化したかもしれない。本作は少々気真面目すぎる気がするので、トリュフォーの洒落て流麗なタッチで観たかったような気もする。
フェイクと言えば、トランプ。彼が大統領に再選されるようなことがあれば中国以上に怖い。環境問題に全く関心がない独裁政権になるだろうから、現存生命の壊滅に繋がっていく選挙になるかも。日本の政府も大いに翻弄されるだろう。しかし、その何年か後にアメリカ国民は自らの選択に後悔する筈。前々回の選挙でトランプを当選させたアメリカ人に幻滅したが、来年もまた幻滅するのかな。
2021年フランス=ベルギー合作映画 監督グザヴィエ・ジャノリ
ネタバレあり
オノレ・ド・バルザックの叢書 “人劇喜劇” のうちでも長い部類の「幻滅」は2年前に読んだばかり。その大作の途中までを映画化した本作は、その範囲において大体そのままである。
貴族の母と薬屋の父の間に生れた才能あふれる若い詩人リュシアン(バンジャマン・ヴォワザン)は、地元の名士であるバルジュトン公爵の夫人ルイーズ(セシル・ド・フランス)と恋仲になり、田舎暮らしで鬱屈していたルイーズと一緒に一旗揚げようとパリへ向かう。
しかし、彼は詩集を巡る出版界に現実にがっかり、そこに加えて母の貴族名を名乗っても田舎者につき社会から激しく馬鹿にされるが、新聞の文芸欄記者として極端な意見を出すことで文壇を大きく影響を与えることで、少なからぬ報酬と地位を得ることが出来ると知って邁進、売れっ子女優コラリー(サロメ・ドウェールズ)とも懇ろになり、言わば世間の垢に染まっていく。
しかるに、ルイーズの従姉デスパール侯爵夫人(ジャンヌ・バリバール)に悪計にまんまと嵌って、貴族の名前の正式な獲得はならず記者の地位をも失って絶望のうちに帰郷の途に就く。
原作ではこの後色々とあるが、映画はここまで。文壇に出ようと地方出身の平民(ハーフではあるが)が悪戦苦闘して半ば成功したものの、都会の悪党たちの前に翻弄されて沈んでいく、という一番重要な主題の把握においてはそれ以降は不要だから、これで良い。
ほぼそのまま現在にも通用する話。真摯な批評など意に介さずスキャンダラスな内容で文士の将来を左右し、あるいはお金で成功・失敗が分かれる様子は、ある意味、ネット上の誹謗中傷やフェイクで有名人も一般人も四苦八苦する現在以上に壮絶なところがあるかもしれない。
美術や衣装が物凄く豪華というわけではないが、画面の周囲を少々暗くした画面がクラシックで、復活した王政と共和制の間を彷徨して混沌とする19世紀前半(1820年頃?)のフランス社会の生き馬の目を抜くような苛酷なムードをうまく醸成しているような気がする。
バルザック好きのフランソワ・トリュフォーが長生きしていたら映画化したかもしれない。本作は少々気真面目すぎる気がするので、トリュフォーの洒落て流麗なタッチで観たかったような気もする。
フェイクと言えば、トランプ。彼が大統領に再選されるようなことがあれば中国以上に怖い。環境問題に全く関心がない独裁政権になるだろうから、現存生命の壊滅に繋がっていく選挙になるかも。日本の政府も大いに翻弄されるだろう。しかし、その何年か後にアメリカ国民は自らの選択に後悔する筈。前々回の選挙でトランプを当選させたアメリカ人に幻滅したが、来年もまた幻滅するのかな。
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