映画評「生きる Living」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2022年イギリス=日本=スウェーデン合作映画 監督オリヴァー・ハーマナス
ネタバレあり
何と黒澤明の名作「生きる」(1952年)の英国でのリメイクである。アメリカでは無理だが、英国なら何となると思いつつ観始めたところ、悪くない出来と思って見終えた。
「生きる」に敬意を払って画面はスタンダードに近いアスペクト比であり、色彩はクラシックな印象を覚えさせるテクニカラーのように強い色彩設計である。1950年代の映画を観ているような印象を覚える。
お話はご存知の方も多いと思うので、以下簡単に記す。
時代背景はやはり「生きる」に敬意を払って、製作年の翌1953年。ロンドン市役所市民課の課長ビル・ナイは “仕事をしないことを仕事としている” ような役人で、後段で元部下の女性エイミー・ルー・ウッドに言われるように、今やゾンビのような人生を送っている。
末期の胃がんであることを宣告された後、楽しく余生を生きようとして街に繰り出すが、その術を知らない。酔いどれ作家トム・バークに歓楽街に誘われてもちょっと楽しみを知った気になるが、まだ足りない。
別の日、相変わらず職場にも出ずに街を歩いている時にエイミーと出くわし、彼女を食事に誘う。彼女の生き生きした印象に彼は思うところがあり、市民有志に請われたものの今までたらい回しの憂き目に遭っていた遊び場の建設に俄然傾倒するのである。
オリジナル通り映画はここで突然葬式になる。惜しいかな、このリメイクではその効果が余りない。
「生きる」は、葬儀後に市民課連中を探偵役にし、延々と課長の変心やその他もろもろの謎を解こうとすることに時間を割き、謂わば倒叙ミステリーの体裁を取ったが、リメイクでは列車内の数分だけだからこの狙いは殆ど機能しない。
その代わり47分もあった侃侃諤諤の議論を短くまとめてすっきり見られるという利点もある。僕は黒澤版の47分という長さに少々批判的であるから、ここを短くしたのには大賛成である。倒叙ミステリー効果の減少については仕方がないだろう。
寧ろ残念なのは、元部下の女性エイミー(「生きる」では小田切みき)との食事後の “ハッピー・バースデー” がなかったこと。若者への “ハッピー・バースデー” が課長の新生を暗示していて大好きな場面なのだ。
監督は若手オリヴァー・ハーマナスで、本作が日本初紹介になるらしいが、カズオ・イシグロの脚色を得て上々の日本デビューとなったと言うべし。カメラも英国映画らしく端正で、気持ちが良い。
日本にもファンが多いビル・ナイが好調。
中国映画に「活きる」(1994年)という作品があるが、リメイクではなかったですな。
2022年イギリス=日本=スウェーデン合作映画 監督オリヴァー・ハーマナス
ネタバレあり
何と黒澤明の名作「生きる」(1952年)の英国でのリメイクである。アメリカでは無理だが、英国なら何となると思いつつ観始めたところ、悪くない出来と思って見終えた。
「生きる」に敬意を払って画面はスタンダードに近いアスペクト比であり、色彩はクラシックな印象を覚えさせるテクニカラーのように強い色彩設計である。1950年代の映画を観ているような印象を覚える。
お話はご存知の方も多いと思うので、以下簡単に記す。
時代背景はやはり「生きる」に敬意を払って、製作年の翌1953年。ロンドン市役所市民課の課長ビル・ナイは “仕事をしないことを仕事としている” ような役人で、後段で元部下の女性エイミー・ルー・ウッドに言われるように、今やゾンビのような人生を送っている。
末期の胃がんであることを宣告された後、楽しく余生を生きようとして街に繰り出すが、その術を知らない。酔いどれ作家トム・バークに歓楽街に誘われてもちょっと楽しみを知った気になるが、まだ足りない。
別の日、相変わらず職場にも出ずに街を歩いている時にエイミーと出くわし、彼女を食事に誘う。彼女の生き生きした印象に彼は思うところがあり、市民有志に請われたものの今までたらい回しの憂き目に遭っていた遊び場の建設に俄然傾倒するのである。
オリジナル通り映画はここで突然葬式になる。惜しいかな、このリメイクではその効果が余りない。
「生きる」は、葬儀後に市民課連中を探偵役にし、延々と課長の変心やその他もろもろの謎を解こうとすることに時間を割き、謂わば倒叙ミステリーの体裁を取ったが、リメイクでは列車内の数分だけだからこの狙いは殆ど機能しない。
その代わり47分もあった侃侃諤諤の議論を短くまとめてすっきり見られるという利点もある。僕は黒澤版の47分という長さに少々批判的であるから、ここを短くしたのには大賛成である。倒叙ミステリー効果の減少については仕方がないだろう。
寧ろ残念なのは、元部下の女性エイミー(「生きる」では小田切みき)との食事後の “ハッピー・バースデー” がなかったこと。若者への “ハッピー・バースデー” が課長の新生を暗示していて大好きな場面なのだ。
監督は若手オリヴァー・ハーマナスで、本作が日本初紹介になるらしいが、カズオ・イシグロの脚色を得て上々の日本デビューとなったと言うべし。カメラも英国映画らしく端正で、気持ちが良い。
日本にもファンが多いビル・ナイが好調。
中国映画に「活きる」(1994年)という作品があるが、リメイクではなかったですな。
この記事へのコメント
感想はよく言えば「お上品」悪く言えば「薄い」^_^
黒澤の「生きる」は「心して生きなければいかん」との思いが少なくとも翌日位までは続くのですが、こちらは残念ながら全くそんな気になりませんでした。
>日本にもファンが多いビル・ナイが好調。
そうですかぁ?
ビルナイは好きなんですけどね…今回の「薄さ」の原因はこの方に負うところが多いにあるのではないかというのがモカ家の共通認識となりましたよ。
久しぶりのコメントで名前の記入を忘れてしまいました。
最近、配信で海外のドラマばっかり観ていまして。1シーズンに4〜5エピソードあってそれが何シーズンと続くので映画を観ている暇がなかったのです。
UNEXTの有料作品を観るためのポイントの一部の使用期限が29日に迫っている事に2、3日前に気付いて慌てて映画を観ている今日この頃でございます。
>感想はよく言えば「お上品」悪く言えば「薄い」^_^
黒澤監督はくどくて有名で、それが典型的に出た構成が、倒叙ミステリー的な葬儀後の話し合い。
こちらが薄く感じる理由の一つは、この構成のせいでしょうね。
僕は両者の中間くらいが良いと思います。
>>日本にもファンが多いビル・ナイが好調。
>そうですかぁ?
あははは。見事に反論されてしまいました^^;
まあ、僕は演技分析は一番不得意なところなので、余程ひどいものや圧倒的なものを別にすると、曖昧に誤魔化すのを習慣としています(笑)
>久しぶりのコメント
当方もモカさんが観そうな映画が少なかったですよ^^
たしか、ヴァンパイア映画ではじめて知った俳優でしたねえ…。
なぜかアドレスを入れるとエラーになるので、我が家にいらっしゃって、記事を見つけてください。
前回のコメント時にビル・ナイって誰かに似ているなぁ、と思っていたのですが昨日やっと誰かわかりました。 彼はイギリスの下條正巳ですよ。思いませんか?
>ヴァンパイア映画ではじめて知った俳優でしたねえ…。
僕は、「パイレーツ・オブ・カリビアン」だと思います。
メークで素顔はよく解らなかったですが。
>なぜかアドレスを入れるとエラーになる
シーサー・ブログはコメントに関しては色々問題ありです。
ある人は、時々、ハンドルネームで投稿できないことがあるようです。
ハンドルネームを打ち込まなくても投稿できてしまうのも問題。
>彼はイギリスの下條正巳ですよ。
アングルによってはそうかな、という感じ。
洋の東西を超えて似ている人を発見すると楽しくなりますね。