映画評「シスター 夏のわかれ道」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2021年日本映画 監督イン・ルオシン
ネタバレあり

最近の中国映画は一時より体制に(そうしないと作らせてもらえないから)媚を売る映画は増えているように見えるが、本作はそういう感じが薄い。しかし、自由主義国ならもう少し違う表現になったと思われる部分があって、残念な気持ちも残る。

6年間親元を離れて(医学部志望だったのに看護学部で学ばされた)大学を卒業した後看護婦をして働く短髪美少女チャン・ツイフォンは、交通事故で両親を失う。葬式後彼女は6歳になる弟ダレン・キムと初めて会い、北京の医学部で学び直すという夢もあるのに、父方の伯母ジュー・ユエンユエンや母方の叔父ウー・ドンファンに弟の世話を押し付けられる。北京で一緒に学ぼうと誓い合った恋人リヤン・ジンカンもいることだし、それだけは避けようと、養父母を探し当てることにする。

というお話の裏には、1979年から35年程続いた中国の一人っ子政策の問題が揺曳している。

ヒロインは、息子が欲しい両親の為に足が悪い振りをさせられたり(最終的に認められて息子が作れたらしい)、十分な愛情を注がれず、大学の学部も親が勝手に詩願書を改竄したという過去があり、特に父親への恨みは浅くない。そんな状況だから、彼女の弟への思いは単に6年間会っていなかったという問題に留まらず複雑である。
 この状況の為に姉は弟に厳しく当たる。それでも、一人っ子同様に我儘だった弟が次第に厳しい姉になつき、姉もそんな弟に愛情を覚えていく。
 その隠微な心情の交錯を描出する一々がなかなか優れている。とりわけじーんとするのは、姉の夢の立場を幼いなりに理解して養父母候補に自ら電話を掛けたり、その家でわざと姉にたてつく振りをする辺りの弟の健気さである。一生ものの夢と、弟に対する愛情と、弟を事実上棄てるということは親が自分にしたことと変わらないのではないかという姉のジレンマがそこはかとなく浮かび上がる。

ここまでは非常に良いと思ったが、結末の仕方は不満である。恐らく、現在の西洋映画であれば、幕切れでは彼女は弟と決別したはずである。フェミニズム云々の前に映画としてそのほうが遥かに厳しく、却って心に残る。
 この映画は、姉が養親の出した確認書にサインせずに弟を連れ出す、という弟側のハッピー・エンドにした。古風な家族万歳映画にした。中国の儒教的な価値観から抜け出せない印象が強く、体制に媚びたとは言わないまでも、これなら中国の検閲にも引っかかるまい。

最後の最後、彼女が弟の蹴ったサッカー・ボールを止めて向うを見る。しかし、そこに弟はいない、彼女が連れ出した後のシーンは彼女の幻影であった、という見せ方かと期待したが、残念ながら弟はそこに実在するのである。
 僕の期待通りであれば内容も厳しく映画的にも充実するので、少なくとも★一つは余分に進呈できた。

検閲と言えば、“(子供が)作れない” というヒロインの台詞があったが、遂に一人っ子政策という措辞が出て来ない。遠慮したのだろうと思う。それを言ったら子供ではなく映画が作れなかったのかもしれない。

今月の里親・里子の映画第2弾でした。

この記事へのコメント