映画評「憧れを超えた侍たち 世界一への記録」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2023年日本映画 監督・三木慎太郎
ネタバレあり

こういう純然たる記録映画は映画評を書くのが難しい。音楽のライブ・ドキュメンタリーと同じ位難しい。何故なら人は対象たるスポーツやライブの興奮度で判断してしまうからである。
 同じスポーツものでも河瀬直美の「東京オリンピック」などは作者の視点が読み取れ、それをどのくらい上手く表現できたか見れば良いが、本作などは試合を通してコーチ陣の知恵や選手たちの奮闘を見せるのが主眼であるからやりにくいわけである。
 勿論全く下手くそでその感動を大いに損なってしまえば別だが、ある程度にまとめてくれれば、WBSの日本優勝に感動した人であれば、やはり感動できてしまう。本作がうまいかどうかよく解らない。流れを要領よく見せていると思い、恐らく水準以下ということにはならない。

僕は国家主義者・民族主義者ではないから、オリンピックや日本代表戦で日本チームや日本人が勝たなくても全然問題ではない。楽しめる試合であるかどうかが大事なのだ。しかし、試合を楽しむためのモチヴェーションの為まずは日本代表や日本人を応援する。

さて、僕が一番好きな球技は野球である。相変わらず人気スポーツとは言え、日本の野球の競技人口が少しずつ減っているのを少々心配している僕は、日本トップ・チームのWBCにおける奮闘に期待した。優勝でなくても良かったが、野球人口増加もしくは維持の為という意味では勝てて良かったというのが正直なところだ。

栗山英樹監督が割合早い段階でダルビッシュ有と大谷翔平を最終戦に投げさせると決めていたのは少々驚いた。
 ダルビッシュは本人の調子は全く悪かったが、若い投手への投球術指導への貢献が大きかったと思う。また、今回のチームでは年長の部類に入る大谷の野球全体に取り組む言動は若い選手に元気を与えたように見える。

個々の話では、準決勝メキシコ戦での吉田正尚選手の同点ホームランにビックリした。あのインコースのそう高くもないボールをホームランにするのは(インコース低めを良い当たりにするとファールにならざるをえないので)神業である。吉田本人も数十回に一回できるかというレベルではないかと思う。相手の投手も吃驚したのではないか? 日本が優勝できた理由を一つのプレイに求めれば、このホームランということになるであろう。

現在日本で一番良い投手であるはずの山本由伸を使ったのに勝ち越されたが、村上宗隆が逆転サヨナラ打を打った。あの日の僕は何故か、まだ負けている6回くらいから大不調の村上が決勝打を打つという予感が、明瞭な映像を伴って、していた。あの日に限り僕は予知能力者だったと思う。

序盤のうちに3失点してがっかりした佐々木朗希が吉田のホームランにホッとした様子も印象深い。WBC関連の映像は色々観たがこの様子は初めてだ。

アメリカ戦(だけでもないが)の大谷の活躍はWBC史に残る。日本人として誇りに思うなんてことは言わない。大谷がたまたま日本人だったのである。

ギャラの話には余り関心ないが、大谷がスポーツ選手史上最高の、山本が投手史上最高のギャラで契約した。大谷の特殊なギャラ後払いがドジャーズの山本獲得を可能にしたと言っても良い。アメリカでの実績のない山本は大変だが、同僚に投手でもある大谷がいるのは有利だ。来年からMLBでランナーのいる時のピッチクロックがさらに2秒早まる。国柄があるので、ピッチクロックはWBCには適用しないでほしいね。

この記事へのコメント

2023年12月26日 23:59
<まだ負けている6回くらいから大不調の村上が
<決勝打を打つという予感が、明瞭な映像を伴って
<していた

そんな奇跡が幾つも発見できた、凄いドキュメンタリーでしたね!
オカピー
2023年12月27日 20:19
onscreenさん、こんにちは。

>そんな奇跡が幾つも発見できた、凄いドキュメンタリーでしたね!

映画として純粋に素晴らしいかどうか未だに確信は持てないですが、長くつぶさに関係者に当たったのがよく解る映画でした。