映画評「非常線の女」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1933年日本映画 監督・小津安二郎
ネタバレあり
小津安二郎監督作品は現存するものは全部観ているはず。今月WOWOWがサイレント映画の新音声版なるものを6本特集して放映したが、本ブログでまだ取り上げていない3本を久しぶりに再鑑賞する。
これは珍しい和製ギャング映画で、画面はデジタル・リマスターした頗るきれいなものにつき、小津の画面感覚が堪能できる。
昼間はタイピストをしている田中絹代は、ボクサー崩れの半グレ岡譲二を愛人としている。なかなかの紳士である社長令息南條康雄がモーションをかけてくるので、金づるとして利用しないでもないが、完全に騙すようなことはしない。
岡は弟分になった不良大学生三井秀夫(後の弘次)の優しい姉・水久保澄子に惹かれる。それを知った田中絹代が脅迫しようとするが、その家庭的な様子に考えを変え、本気で結婚してくれるらしい南條氏の求婚すら断って、岡と真面目にやろうと誓い合う。
が、好事魔多し、三井君に姉の勤務先のレジスターから金を窃盗したのを告げられるや、岡氏はその姉の為に最後の一仕事即ち絹代姐さんの会社に押し入って少額を強請るのである。彼女は “逃げるのは一生の損” と彼を説得し、二人揃ってお縄になる。
同時代のジャームス・キャグニーのギャング映画のようなムード。
最後の場面が素敵だ。二人が逃げ出した意外なほど家庭的な部屋に一人残っていた警官が絹代姐の毛糸玉をいじってそれが床に落ちる。花の置かれた窓辺に光が差す。出所後の二人に仕合せあれ!てな気分にさせられる。
岡氏の心はズべ公の絹代姐と家庭的な澄子嬢との間で迷い、絹代姐の心は半グレの岡と堅実な紳士・南城氏の間を彷徨う。真に悪い人間は一人も出て来ない。自分の立場をよく理解している半グレカップルの心情にぐっと来る。
まだ小津スタイルは確立していず、ロー・ポジションのカメラはあっても固定はされていない。後年のパン・フォーカスとは全く逆の、被写界深度の浅い画面も何か所かある。画面転換の為だけにインサートされる空ショットも事実上ない。
ただ、人々の視線を重視する感覚だけは既にあり、それが同時性・相似性と結び付いて、人々が一緒にあっちを向きこっちを向き、という面白い数カット(音声がない故にサイレント映画で表現が極端になる例でもある)が印象に残る。
他にも幸福感を味わえるほどに美しい構図のショットが多い。画面で映画を観る人は是非観るべし。
この映画はレーザーディスクでも持っている。全く音声が入っていないのではなかったかな?
1933年日本映画 監督・小津安二郎
ネタバレあり
小津安二郎監督作品は現存するものは全部観ているはず。今月WOWOWがサイレント映画の新音声版なるものを6本特集して放映したが、本ブログでまだ取り上げていない3本を久しぶりに再鑑賞する。
これは珍しい和製ギャング映画で、画面はデジタル・リマスターした頗るきれいなものにつき、小津の画面感覚が堪能できる。
昼間はタイピストをしている田中絹代は、ボクサー崩れの半グレ岡譲二を愛人としている。なかなかの紳士である社長令息南條康雄がモーションをかけてくるので、金づるとして利用しないでもないが、完全に騙すようなことはしない。
岡は弟分になった不良大学生三井秀夫(後の弘次)の優しい姉・水久保澄子に惹かれる。それを知った田中絹代が脅迫しようとするが、その家庭的な様子に考えを変え、本気で結婚してくれるらしい南條氏の求婚すら断って、岡と真面目にやろうと誓い合う。
が、好事魔多し、三井君に姉の勤務先のレジスターから金を窃盗したのを告げられるや、岡氏はその姉の為に最後の一仕事即ち絹代姐さんの会社に押し入って少額を強請るのである。彼女は “逃げるのは一生の損” と彼を説得し、二人揃ってお縄になる。
同時代のジャームス・キャグニーのギャング映画のようなムード。
最後の場面が素敵だ。二人が逃げ出した意外なほど家庭的な部屋に一人残っていた警官が絹代姐の毛糸玉をいじってそれが床に落ちる。花の置かれた窓辺に光が差す。出所後の二人に仕合せあれ!てな気分にさせられる。
岡氏の心はズべ公の絹代姐と家庭的な澄子嬢との間で迷い、絹代姐の心は半グレの岡と堅実な紳士・南城氏の間を彷徨う。真に悪い人間は一人も出て来ない。自分の立場をよく理解している半グレカップルの心情にぐっと来る。
まだ小津スタイルは確立していず、ロー・ポジションのカメラはあっても固定はされていない。後年のパン・フォーカスとは全く逆の、被写界深度の浅い画面も何か所かある。画面転換の為だけにインサートされる空ショットも事実上ない。
ただ、人々の視線を重視する感覚だけは既にあり、それが同時性・相似性と結び付いて、人々が一緒にあっちを向きこっちを向き、という面白い数カット(音声がない故にサイレント映画で表現が極端になる例でもある)が印象に残る。
他にも幸福感を味わえるほどに美しい構図のショットが多い。画面で映画を観る人は是非観るべし。
この映画はレーザーディスクでも持っている。全く音声が入っていないのではなかったかな?
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