映画評「東京の女」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1933年日本映画 監督・小津安二郎
ネタバレあり
原作のエルンスト・シュワルツは小津安二郎の偽名で、洒落っ気。ファースト・ネームについては、尊敬するエルンスト・ルビッチが頭にあったのだろう。現にルビッチも参加したオムニバス映画「百万圓貰ったら」が結構長い尺で紹介される。
しかし、そんな洒落っ気とは正反対に、内容は「東京暮色」に匹敵するくらい暗い、悲劇的な作品である。
優秀なタイピストで語学力もあるらしい岡田嘉子は、大学生の弟江田宇礼雄を無事に卒業させようと、昼間はタイピストとして、夜は翻訳の手伝いをしている。そんなある時、会社に警官が現れ、彼女が “接客業“ をしているらしいことが判って来る。
それを一巡査の兄ではなく、その妹で江田君の恋人である田中絹代が確認と説教をしに出かける。その相手である姉がまだ帰宅しない為彼女は恋人に “噂” について話す。彼は彼女に “中傷するなんて” と言って追い出すが、噂が本当であることは察したらしく、帰宅した姉を打擲した後、家を飛び出す。
姉が田中絹代の家を探しに訪れている間に弟自殺の報が届く。
という悲劇で、江田君の悲観は度が過ぎている気がするが、彼が近親相姦的な愛情を美しく健気な姉に持っていたとしたらそうとは言い切れなくなる。
50分足らずの短い尺(検閲があった可能性あり)のこの映画で、ここが心理的に最も思惟したくなるところだ。
登場人物の心理は沸騰する薬缶やたくさんある時計が象徴し、音声も加えられている。
同じように悲劇的だった「東京暮色」でも時計の音がくどいほど延々と響いていたのを思い出す。トーキーでは音があるから時計の描写は最小限に、サイレントは音がないから時計をがっちりと映し出す。この辺の差を考えるのも映画研究として面白いだろう。
つまり、本作における大量の時計のショットに時計を音を加えるのは、過剰な印象になって寧ろマイナスの可能性がある。
この間読んだ共産党変遷を回顧する中野重治の長編小説「甲乙丙丁」で偽名で紹介されていたように、岡田嘉子はこの映画の4年後ソ連に逃げる。一緒に逃げた恋人はソ連当局にスパイ扱いされて獄死した。
1933年日本映画 監督・小津安二郎
ネタバレあり
原作のエルンスト・シュワルツは小津安二郎の偽名で、洒落っ気。ファースト・ネームについては、尊敬するエルンスト・ルビッチが頭にあったのだろう。現にルビッチも参加したオムニバス映画「百万圓貰ったら」が結構長い尺で紹介される。
しかし、そんな洒落っ気とは正反対に、内容は「東京暮色」に匹敵するくらい暗い、悲劇的な作品である。
優秀なタイピストで語学力もあるらしい岡田嘉子は、大学生の弟江田宇礼雄を無事に卒業させようと、昼間はタイピストとして、夜は翻訳の手伝いをしている。そんなある時、会社に警官が現れ、彼女が “接客業“ をしているらしいことが判って来る。
それを一巡査の兄ではなく、その妹で江田君の恋人である田中絹代が確認と説教をしに出かける。その相手である姉がまだ帰宅しない為彼女は恋人に “噂” について話す。彼は彼女に “中傷するなんて” と言って追い出すが、噂が本当であることは察したらしく、帰宅した姉を打擲した後、家を飛び出す。
姉が田中絹代の家を探しに訪れている間に弟自殺の報が届く。
という悲劇で、江田君の悲観は度が過ぎている気がするが、彼が近親相姦的な愛情を美しく健気な姉に持っていたとしたらそうとは言い切れなくなる。
50分足らずの短い尺(検閲があった可能性あり)のこの映画で、ここが心理的に最も思惟したくなるところだ。
登場人物の心理は沸騰する薬缶やたくさんある時計が象徴し、音声も加えられている。
同じように悲劇的だった「東京暮色」でも時計の音がくどいほど延々と響いていたのを思い出す。トーキーでは音があるから時計の描写は最小限に、サイレントは音がないから時計をがっちりと映し出す。この辺の差を考えるのも映画研究として面白いだろう。
つまり、本作における大量の時計のショットに時計を音を加えるのは、過剰な印象になって寧ろマイナスの可能性がある。
この間読んだ共産党変遷を回顧する中野重治の長編小説「甲乙丙丁」で偽名で紹介されていたように、岡田嘉子はこの映画の4年後ソ連に逃げる。一緒に逃げた恋人はソ連当局にスパイ扱いされて獄死した。
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