映画評「すずめの戸締まり」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
2022年日本映画 監督・新海誠
ネタバレあり

こんなことってあるのだろうか! 地震をテーマにした新海誠のこのアニメのWOWOW初放映の5時間前に本当に大地震と“大津波警報”が出るとは! 「すずめの戸締まり」の登場人物が活躍しなかったようである。

女子高校生岩戸鈴芽(声:原菜乃華)が、町の廃墟のありかを訊いた若者宗像草太(松村北斗)が気になり、廃墟で見出した石(後に要石という地震を抑えるのに重要な役目を負っていると判明する)を除くと、石は猫になって逃走する。
 要石を失った町は地震に揺れるが、草太君は猫によって、鈴芽の大事にしている三本足の椅子に閉じ込められる。
 以降、 意思を持った椅子と鈴芽が猫を追うと、 各地で地震の前兆となる “みみず” を見出すことになる。 要石を失って解き放された、 通常の人間に見えない魔物で、草太は学業のかたわら開いた隙間を埋める “閉じ師” として日本各地を移動していたということが判って来る。
 他方、12年前姉を失ってその娘鈴芽を引き取った環(声:深津絵里)は、彼女が家出をしたと思って、仕事を休んで彼女を追跡する。
 片や、草太君は徐々に要石になる運命で、やがて石そのものになった彼を要石にして震災を未然に防いだ鈴芽は、草太を人として蘇らそうと、彼の友人の車にそこへ現れた環と共に乗り合って、12年前に母親を失った震災にヒントがあると東北を目指し、遂に12年前に母を探すうちに常世に迷い込んだ幼い自分と再会する。

新海誠は今や大ヒット・メイカーで、「君の名は。」には及ばなかったものの大ヒットした。それに値する秀作と思う。
 現実的なネタと民俗学的なネタとを結び付けるという点で過去二作、特に前作「天気の子」と共通する点が多いが、「天気の子」に比べてアイデアがぐっと独創的であること、そして、恋愛感情が行動の後を追っていくという流れにした、これまでとは違うお話の構図の面白味により、開巻から最後まで見事に楽しませてくれる。
 ロード・ムービーとして、各地でそれぞれの優しさを見せていく人々の点出の秀逸ぶりを得て、これが達成できたと思う。

新海監督は、2011年の大震災に深い思いを懐いているらしく、ヒロインの母親の死の理由を隠してそれを終盤に初めて明らかにし、母親を失った悲しみに負けそうになっている幼女鈴芽と現在の彼女が会う場面が頗る感動的に見られる結果となっている。
 画面に、作者の、生命(いのち)を愛おしむ強い気持ちが沈潜し、これが映画に血と肉を与えているのである。

鈴芽の自分探しの旅。元日の夜WOWOWでこれを見ようとしたが実現できなかった能登の人もいるだろう。友人が金沢に住んでいる。金沢だから命には別条ないだろうが、ちょっと心配ではある。

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