映画評「拳銃魔」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1950年アメリカ映画 監督ジョセフ・H・ルイス
ネタバレあり

原作者で共同脚色も担当したマッキンリー・カンターは、実在の男女ペア強盗犯ボニー&クライドのヴァリエーションとして書いたにちがいない。Filmarksに“元祖ボニー&クライド”と紹介する人がいたが、その表現は不正確である。確かに映画「俺たちに明日はない」(原題がボニー&クライド)に先立つが、実際のボニー&クライドをモデルにフリッツ・ラングが1937年に「暗黒街の弾痕」を発表している。彼らの人生の参考にして、その表敬として主人公の友人で保安官の名前がクライドとしたのであろう。

因みに、共同脚本者としてミラード・カウフマンの名が出ているが、ただの名義貸し。実際には昨年末に観た「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」で描かれたように、キング兄弟の下でドルトン・トランボが脚本(脚色)をものしたことが判っている。

幼児の時からガンに多大な興味を示すも殺生には抵抗ある若者バート(ジョン・ドール)が、ショーで拳銃使いの美人アニー(ペギー・カミンズ)と競い合い、同僚として雇われる。
 が、仲良くなった結果二人は仕事を首になり、食べて行く為にアニーの率先で強盗行脚となる。もう止めようと決めるが、アニーの一言で行った最後の仕事で二人が死に、凶悪犯として警察に追われることになる。
 仕方なく彼の地元に戻った二人は、今では保安官になったクライド(ハリー・リュイス)らに自首するよう勧められるが、あくまで逃亡を目指す。

というお話で、男性の立場から見れば典型的なファム・ファタールもので、ヒロインに扮するペギー・カミンズは、アラン・ラッドとよく共演したヴェロニカ・レイクの亜流のような感じで、彼女ほどクールではないがファム・ファタールらしさはぐっとある。ジョン・ドールは「ロープ」でもようであったように性格演技を心掛けている。ここでは悪になれない非道者という面白い性格をうまく見せている。

気の毒なのは保安官クライドである。湿原に現れた彼を狙ったアニーをバートが撃つ。しかし、事情を知らない他の官憲がバートを撃つ。クライドは彼の良心が無駄になったことに呆然とせざるを得ない。

お話はB級アクションらしく、簡潔にスピードたっぷりに進行する。簡潔を超え省略しすぎて二人がいつの間にか正業についていてそこで犯罪を起こすという辺り全くピンと来ないが、強盗の場面はいずれも切れ味よろしい。

ここを含めて一番の殊勲者は撮影監督ラッセル・ハーランで、バートが少年時代(ラス・タンバリン)に店から拳銃を盗んで慌てる余り雨に濡れる路に倒れ、男に発見されるシークエンスのカット割りが白眉である。

映画的にワクワクするのは、別れると決めた二人が別々の車で反対方向にスタートした後バートが思い直して車を止めて降り、彼女の車に乗り込むという箇所。実に粋と言うべし。

ヘイズ・コードが幅を利かせていた頃の作品なので、とりわけ少年時代の扱いに勧善懲悪的な説教を聞かされるようなところがあるが、その弱点を含めても十二分に見る価値があると思う。

高校に進学した甥がアーチェリーを始めたのに驚いた。体育会系とは思えなかったからだが、ある時小学校高学年の頃からライフルのおもちゃを買って遊んでいたことを思い出し納得した。そう、彼はシューティングが好きだったのだ。

この記事へのコメント

2024年01月13日 08:13
>ファム・ファタール
善良なバートの理性を溶かせる唯一のものが拳銃で、そんなバートが拳銃の化身みたいな女に出会ってしまうんですよね。でも、最後ぎりぎり良心を保つが悲劇に終わる。かなり神話的なおはなしに仕上がってました。

>一番の殊勲者は撮影監督ラッセル・ハーラン
そう、最高! 野外でのロケはもちろん、室内で二人が強盗の計画を立てている場面の撮り方も神がかったようでした。
オカピー
2024年01月13日 21:27
nesskoさん、こんにちは。

>神話的なおはなしに仕上がってました。

そういう言い方もできますかね。

>一番の殊勲者は撮影監督ラッセル・ハーラン
>室内で二人が強盗の計画を立てている場面の撮り方も神がかったようでした。

ハイビジョンで観たかった映像でしたねえ。