一年遅れのベスト10~2023年私的ベスト10発表~

 群馬の山奥に住み、持病もあり、WOWOWを中心にした映画鑑賞生活ですので、僕の2023年私的ベスト10は皆様の2022年にほぼ相当する計算でございます。

 スタンスとして初鑑賞なら新旧問わず何でも入れることにしていますが、プライムビデオ等における大旧作にも未鑑賞作が少なくなり、そのせいもあって昨年☆☆☆☆(8点/10点満点中)以上を進呈した作品はたったの24本(2022年は42本)で、そのうちドキュメンタリーが8本を占めますから、☆☆☆☆以上の劇映画はたったの16本ですよ。これは不作なんてものではない。映画の採点を初めて40年以上経ちますが、この低レベルはかつてなかったことです。たまに例外がありますがドキュメンタリーを劇映画を同じフィールドで比べるのは無理があるので、例年通り対象外としました。

 2023年鑑賞本数は一昨年と変わらず351本、再鑑賞は48本(一昨年は43本)でした。従って、本稿対象となる初鑑賞作品は303本で、辛うじて300本の大台を保ちました。昨年の映画のレベルを考えると、2024年は300本を割る公算が高いですね。
 
 作品傾向としては、WOWOWの力の注ぎ方の影響もあって欧州映画がふるわず、英米映画が強かった。特に調査報道もの/裁判型社会派映画のようなジャンルを扱わせると英米は実に良いものを作る。逆に日本映画の最も弱いジャンルがこれなんです。
 とは言え、欧米映画はポリ・コレに配慮しすぎるが故に不自然な映画が多いですし、そこに関してはまだ自然体が維持できている邦画はそこそこ良いと思えるものが多いものの☆☆☆☆にまで届く映画はなく、ベスト10選外に。この状態が後5年も続けば新作映画はもう観ないと、僕をして、言わざるを得ない状態なのです。

 愚痴はさておいて、ラインアップに参りましょう。


1位・・・ベルファスト
ケネス・ブラナーの作る映画に初めて、真に感心。モノクロ映画に痺れてしまう僕の傾向を差し引いても、素晴らしい人物造形に立脚した家族映画として惚れ惚れしました。

2位・・・秘密の森の、その向こう
セリーヌ・シアマという女性監督は説教臭いところが良くないと思っていましたが、この映画に関しては実に素直に自らの心境を画面に投影していて、純粋に画面に心酔しました。画面の扱いが良いのよ。

3位・・・SHE SAID/シー・セッド その名を暴け
調査報道もの/裁判型社会派映画に良いものが幾つかあった中でこれが一番力強かった気がします。トランプをあんな形で映画に扱えるアメリカ映画が羨ましい限り。日本映画界がモリカケ問題をドラマ映画にできますかってんだ(笑)

4位・・・トランボ ハリウッドに最も嫌われた男
準新作クラスだが、「ローマの休日」の脚本を書いたのが潜伏中のドルトン・トランボと知った後作られた作品だけに、ずっと見たかったのにWOWOWが何故か買わなかった為に今頃になりましたよ。実際に面白い映画でしたね。別にハリウッドがトランボを嫌ったわけではないですけどね。

5位・・・オフィサー・アンド・スパイ
世界史の教科書でも扱われるドレフュス事件の詳細を描いたロマン・ポランスキーによる歴史もの。若い頃と違ってポランスキーも正攻法を作る映画作家というタイプになった。それ自体が感慨深いです。

6位・・・いつかの君にもわかること
家族映画のアングルで作られた一種の社会派映画。父親の奔走にじーんとしてしまう。扱いの良さに好感を覚えました。日本映画でも扱える素材ながら、もっと重くなる。

7位・・・ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男
これも「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」と甲乙つけがたい社会派映画の秀作で、多分この映画の主人公の活躍によって、現在日本各地で大問題になっているフッ素化合物に焦点が当てられることになったということがよく解ります。保守の一部に経済さえよければ環境問題など知ったことかという(のを言いたくて環境問題自体をフェイクと言っている)方々がいます。この点においてもトランプが再選されたら世界は危ない。この映画は是非観るべし。

8位・・・オットーという男
リメイクでなければもう少し上でも良かった秀作。マーク・フォースターはやはり端正に映画を作らせると実力を発揮する。主演のトム・ハンクスが好調で、年末に再鑑賞した「プライベート・ライアン」の見えざる後押しもあって、男優賞にも選びました。

9位・・・英雄の証明
わがベスト10常連のアスガー・ファルハディの力作。しかし、ちょっとパターンの類似が気になり、旧作程には感心できなかったですかね。彼の作品はイスラム圏の人々を勉強するには実に良い素材です。

10位・・・トップガン マーヴェリック
何と36年ぶりの続編ですよ。「トップガン」にそこまで傾倒しているわけではありませんが、かように王道を行く大衆映画を一本くらい入れたいので、それにふさわしい作品があって良かったという感じ。迫力を殺がないカット割りも素晴らしかった。


次点・・・帰らない日曜日
我が邦の是枝裕和監督が作った韓国映画「ベイビー・ブローカー」との間で悩みましたが、こちらの上品な味の良さが勝ちました。

画像

ワースト・・・ダーク・グラス


****テキトーに選んだ各部門賞****

監督賞・・・ケネス・ブラナー~「ベルファスト」
男優賞・・・トム・ハンクス~「オットーという男」
女優賞・・・岸井ゆきの~「おじいちゃん、死んじゃったって」「犬は食わねどチャーリーは笑う」「やがて海へと届く」「ケイコ 目を澄ませて
脚本賞・・・~「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」
撮影賞・・・ジュルジュ・デアン~「憎しみ
音楽賞・・・不明~「ベルイマン島にて
特別賞・・・なし

この記事へのコメント

2024年01月17日 06:00
「秘密の森の、その向こう」「オフィサー・アンド・スパイ」さらに録画したものの見る勇気が出なかった「ダーク・ウォーターズ」など、未見の映画がそれなりにあり、参考になります!
オカピー
2024年01月17日 22:27
onscreenさん、こんにちは。

>「秘密の森の、その向こう」「オフィサー・アンド・スパイ」さらに録画したものの見る勇気が出なかった「ダーク・ウォーターズ」

どれも良いです。是非ご覧ください。
2024年01月21日 10:39
「ベルファスト」「SHE SAID~」は私も星4つ、つけました!
「オットー~」などは触手が動かない(苦笑)。
アルジェント映画は、アタマ悪い感がよくありますよね…

我が家では「2023年・テレビ(画面)で観た映画」と「2023年マイベスト16」と、2本のベスト記事を書きましたが、1年遅れならば前者のほうがフィットしますね。
オカピー
2024年01月21日 20:21
ぼーさん、こんにちは。

>「ベルファスト」「SHE SAID~」は私も星4つ、つけました!

グッド(笑)
二つも重なれば御の字です。

>「オットー~」などは触手が動かない(苦笑)。

結構良いんですよ、これが。
トム・ハンクスはどちらかと言えば苦手な俳優ですが、がっちりとみせていましたな。

>アルジェント映画は、アタマ悪い感がよくありますよね…

常識人であるはずの登場人物の行動がいつも常識から逸脱している(笑)

>我が家では「2023年・テレビ(画面)で観た映画」と「2023年マイベスト16」と、2本のベスト記事を書きましたが、
>1年遅れならば前者のほうがフィットしますね。

了解です^^ゝ
2024年02月04日 11:33
こんにちは。ボーさんのところから来ました。
骨太な作品を中心にあげていらっしゃるので、私のようなミーハーのコメントはご迷惑かも…と思いつつ、女優賞の岸井ゆきのさんについては大変同感に思いますので、それをお伝えしたかった次第です。
彼女、目力が凄いんですよねぇ。
オカピー
2024年02月04日 18:58
ここなつさん、こんにちは。

多分大昔に書き込んだり、書き込まれたりしたことがあるような気がします。
ですから、お久しぶり、でしょうか?

>私のようなミーハー

とんでもない。
僕は左脳人間で、融通がきかないだけです^^;

>岸井ゆきの

同じようでいて千変万化。
確かに目の力があって「犬は食わねどチャーリーは笑う」ようなコメディーでも圧倒されますよね。