映画評「夜明けまでバス停で」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2022年日本映画 監督・高橋伴明
ネタバレあり

コロナ禍下(かか)の2020年11月に実際に起きたホームレス女性殺害事件にインスパイアされたと聞いたので、もっとセミ・ドキュメンタリーの社会派映画になっているかと思いきや、前半はともかく、後半は大分予想に反する展開になっている。

コロナ禍に突入して人の出入りが減った東京の居酒屋チェーン店に勤める中年女性・板谷由夏が、他の同僚(片岡礼子、ルピー・モレノ)と突然首になり、内定していた介護施設への住み込み勤務も取り消され、遂にはバス停で夜を明かす羽目に陥っていく。
 ホームレスを社会をダメにする害虫と決め込む勘違い男・松浦祐也が彼女を殺してやろうと狙っている。実は善人だった女店長・大西礼芳が退職金を渡すべく彼女の居場所を探し求める一方、ヒロインはかつて極左活動家として爆破事件を起こした老ホームレス柄本明と親しくなる。

映画としては、後半の潜在的コメディー映画とでも言うべき作品の性格に興味を覚えつつ、想像よりは平凡と感じた。
 しかし、当時の安倍首相と菅官房長官の映像をしっかり出し、左翼の過激派という設定の柄本明に明確な安倍晋三批判をさせたことに、大いに甚だ頗る感心した。
 近年どころか、日本映画史上ここまで思い切って実在の政治家を揶揄する劇映画があっただろうか。モリカケも出て来る。
 批判でなくても極力実際の固有名詞(人名に限らず学校名、企業名等も)を避ける忖度文化(だけでもあるまいが)の日本の現状を考えると、これはあっぱれなことである。

日本の映画作家諸君よ、高橋伴明監督と脚本を書いた梶原阿貴(女優でもあります)に続け!

固有名詞を避ける・・・で思い出す傑作例は、パトカーに群馬県警とあるのに台詞ではそれを一切言わなかった「64-ロクヨン-」。)

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