映画評「モリコーネ 映画が恋した音楽家」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2021年イタリア=ベルギー=オランダ=日本合作映画 監督ジュゼッペ・トルナトーレ
ネタバレあり

ニーノ・ロータ、フランシス・レイと共に僕がご贔屓にする映画音楽作曲家がモリコーネである。
 20年近く前になるだろうか、BMGビクターがカタログ通販でエンニオ・モリコーネの映画音楽を集めた集大成を発売するというので、マカロニ・ウェスタンその他で大好きだった彼の音楽ふんだんに聴けると思って注文したが、結局発売されず、がっかりした。

大概の人がそうであるように僕もマカロニ・ウェスタンの主題曲でモリコーネに注目したわけだが、このドキュメンタリーを見ると、最初はクラシック作曲家を目指していたらしい。

その後ポピュラー音楽のアレンジャーとして雇われると、流行歌(イタリアン・ツイストで日本でもよく知られるマッシモ・ジロッティなど)のアレンジで、そのクラシックの素養を生かして相当斬新なことをやった模様。ご本人はシングルよりアルバムの方が大胆なことができたと言っているが、本作でモリコーネと比較される革命的存在として挙げられるビートルズもアルバムを聴いて初めて真価が解るとは思う。

これが映画音楽に関わる端緒となり、バッハしか使わなかったピエル・パオロ・パゾリーニも既成のクラシックではなく、初めて映画用音楽としてモリコーネを採用した。

「荒野の用心棒」以降何回もコンビを組むセルジョ・レオーネとは何と小学高時代の同級生とのこと。凄い小学校ですな。同級生だから使ったのではなく、興味を持ってレオーネが招聘したら同級生だったという事実に気付いたとの由。

かくして映画音楽で凄い実績を積む一方で、実験音楽を作り、後年ダリオ・アルジェントのホラー3作で実験音楽にトライしたところ、関係者から酷評されたらしい。

その後「死刑台のメロディ」(ジョーン・バエズの歌はヒットしたなあ)でメロディに回帰し、暫くして本作監督であるジュゼッペ・トルナトーレの作品を手掛けて彼と縁が出来る。トルナトーレは新人なのに自分を信用してくれたモリコーネに感謝している。

そのトルナトーレはインタビュイーを漫然と撮り続けるのではなくアップやバストショットなど対象との距離を自在に変えるという、劇映画作家ならではの工夫を見せるし、いつまでも人物を写さず過去の映像・画像を巧みに切り貼りして見せる。さすがトルナトーレという印象だ。

音楽用語に少し解らない、当方の知識不足が残念に感じられるところがあるが、概ね問題なし。映画音楽に興味ある方は必見。

大音楽家はBで始まる名前を持つというのが定説だが、モーツァルト、モリコーネのMも凄いですね。

この記事へのコメント

2024年02月03日 19:18
モリコーネは、やっぱりマカロニウエスタンのころが、ワクワクできて楽しいです。ああ、あれ、実験音楽的な資質があったから、あのユニークなものができたんだなあと納得。
映画の印象が、音楽に大きく左右されることがあることを考えると、モリコーネはすごい人だったと再確認しますね。
オカピー
2024年02月03日 22:33
ボーさん、こんにちは。

>マカロニウエスタンのころ

あれは、ポピュラー音楽のアレンジに携わっていたことと、クラシックの素養があったことで成立したと思い知りました。
どちらかだけでもあのサウンドは出て来なかったでしょう。