映画評「湯道」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2023年日本映画 監督・鈴木雅之
ネタバレあり

おくりびと」という僕がかなり感心した小山薫堂が脚本を書いていると知ったのは、エンディング・ロールでよってである。なるほどマニュアル映画的なところに共通点があるが、通俗に傾き過ぎている分だけ、かの秀作に及ばない印象が残る。

若手建築家の生田斗真が、父親亡き後弟・濱田岳が営んでいる銭湯を壊して土地を売った後にその跡地に複合的マンションを作るアイデアを持って、銭湯の実家に戻って来る。銭湯には美人・橋本環奈が助手として頑張っている。後半で判るのは、この銭湯の湯沸かし以外の実務は殆ど彼女によって成り立っているという事実。

お客には色々な人物がいるが、郵便局を間もなく引退する初老・小日向文世が嵌っている湯道(ゆどう)の一環で退職金で家の風呂を改修する為、その期間彼らの銭湯にやって来て、後のゴタゴタの時に色々と意味を成して来る。
 特に、大喧嘩の後兄弟が廃業を決めたのにがっかりして姿を消した彼女を探しに、無名の元茶屋を訪れて起こるドタバタは上手く構成されている。元女将(夏木マリ)によれば訪れた女性客はいないが、橋本環奈がいる。何故か? 彼女の孫なのである(確かに客としては来ていない)。但し、湯道の師範から教わった茶屋の孫娘が銭湯のお手伝いというのは、出来すぎの偶然ではありますけどね。

このお話にもう一つ色を加えているのは、銭湯否定派の温泉評論家・吉田鋼太郎で、結局反面教師として兄弟の変心に貢献するのが人情劇として面白い。

僕も大学時代に数年間銭湯のお世話になったが、就職後は風呂があるところに暮らしていたので、そこで終わった。僕が入り始めた頃は東京で195円(お釣りを5円にしてご縁があるという洒落っ気)で、卒業する時は230円となり本当にご縁がなくなった。

画面は縦の構図と横の構図を強く意識して構成されていて、横の構図で移動撮影したかと思えば、いきなり縦の構図でズーム・インしたりアウトしたりと、パワフルに構成される。
 監督はTV畑の鈴木雅之。この人は確かにカメラをよく動かす人だ。今まではどうも【仏作って魂入れず】の感を免れなかったが、今回は事前に知らなかったこともあるにせよ、悪くない印象。カメラをバケツに付けたり、長回しをVFXで誤魔化すなど相変わらず軽薄な箇所も少なからずあるものの、結構気に入りました。

“湯道”を“ゆどう”と読ませるのは文字通り【湯桶読み】。道が付く言葉は通常の読み方をすることになっているので“とうどう”が良いのだろうけど。これから作られる”~道”には【湯桶読み】も増えて来るだろう。

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