映画評「それでも私は生きていく」

☆☆★(5点/10点満点中)
2022年フランス=イギリス=ドイツ合作映画 監督ミア・ハンセン=ラヴ
ネタバレあり

夫と死に別れた後9歳くらいの娘カミール・ルバン・マルタンを独りで懸命に育てている母親レア・セドゥは、同時に頻繁に積極的に、認知症に陥った元哲学教授の父親パスカル・グレゴリーを訪問し甲斐甲斐しく世話をしている。
 母親ニコール・ガルシアは離婚しているが、それでも時々様子を見に来る。姉妹も協力してくれる。父親は徐々に自分を忘れかけるのに、離婚後に(?)できた恋人のことは見事に忘れない。かかる人々の協力の下父親は病院や施設を転々とする。
 かく懸命に生きている間に孤独を募らせた彼女は、昔からの男性の友人で妻子のいるメルヴィル・プポーと男女の関係になる。彼も夢中ではあるが、家庭を維持したい気持ちもあって、両者の間で落ち着かない様子である。無理を承知で彼に愚痴を言ってみる。
 頻繁に往来を繰り返すうちに彼は段々彼女に傾いてくる。父親が自分を認知できなくなったと気付いた彼女は、しかし、彼と娘と町を見下ろす丘に立つ(未来を見つめる?)。

ある意味珍しいタイプのフランス映画ではないか。男女の性愛観はフランス映画もしくはフランス人の平均的なところかもしれないが、感情より論理や自己主張が前に来るようなフランス人には珍しく、ヒロインは泣いてばかりいるのだ。主張はあっても順番が日本的と言おうか、日本人でも強くあらねばならぬシングルマザーであればここまで泣かないような気がする。

幕切れを別にすると陰々滅々にして、かつ展開ぶりが低回的な感じが強すぎて、今の僕の心境ではどうも余り肯定的に捉えられない作品に思われる。これまで観たミア・ハンセン=ラヴの映画の中では最も満足感が低い。

ただ、背景音楽がちょっと昔の映画音楽のようにしっとりしているのは嬉しい。レア・セドゥの裸体の背面が古い絵画の裸体画のように美しいのも眼福。

ミア・ハンセン=ラヴ監督の映画は音楽が良い。昨年の「ベルイマン島にて」は音楽賞を進呈したくらい。

この記事へのコメント