映画評「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」

☆☆★(5点/10点満点中)
2023年日本映画 監督・内田英治、片山慎三

内田英治は「身体を売ったらサヨウナラ」を作っているので風俗産業への興味があるだろうから、基本アイデアは彼から出たのではないか。共同監督の片山慎三は「岬の二人」「さがす」で世間の片隅で生きているような人間を扱って来た。
 この二人の新鋭監督が、スナック兼探偵事務所という変わった場所で交錯する人々を敷衍した見せた6つのエピソードを交互に演出した変わり種群像劇だ。

しかし、最初と最後のエピソードでETをめぐる争奪戦を描いてこの部分だけ異様にブラックコメディ―っぽい。それにサンドウィッチされる挿話は歌舞伎町らしい風俗の香りが濃厚に漂う悲劇群である。

スナックのバーテン兼探偵のマリコ(伊藤沙莉)に、かつてのヤクザ北村有起哉が何年か前に失踪して歌舞伎町にいるらしい娘の行方を突き止めてくれるよう頼み、確定的な情報を得る前に特攻的な仕事に向かう。これが言わば第3話で、マジックミラーの張られたAV撮影車越しに父娘が接近遭遇するところが悲しい。
 スナック常連の妙齢美人・久保史緒里が入れ込んだホストと無理心中する話もある(第2話、第4話)。
 公務員を表向きの顔とするスナック常連で中年姉妹(中原果南、島田桃依)が実は殺し屋だったという第5話。父親に仕込まれたわけで、訳ありの過去を持つという点でヒロインと親和性がある。

最後のエピソードの前半はヒロインの悲劇的な少女時代のお話で、それが縁で伊賀忍者の末裔・竹野内豊と年齢差カップルが誕生した次第。これが明らかにされた後、ET騒動に雪崩れ込んでいく。

このET騒動は不要ではないかという意見はある程度理解できるが、監督たちが一番言いたかったのはここにあるのではないかと、僕は思う。つまり、日本(というより人間か)はエイリアン(外国人)に冷たいということである。人がエイリアンに優しく出来る資質があるのであれば、日夜歌舞伎町で繰り広げられている、こんな日常的な悲哀も生まれないのではないか。そんな作者たちのメッセージが聞こえてくるようだ。

しかし、これがある為にどうも散漫な印象が禁じ得ないし、久保史緒里が亡くなった後あれほど彼女を心配していたマリコが彼女のことに一切言及しないのは全く妙である。監督を二人に分けた弊害であろう。

題名はウィリアム・ワイラー監督「我らの生涯の最良の年」(1946年)のパロディーぽい。その公開直後に題名を真似たと思われる「わが生涯のかがやける日」(1948年)という邦画も作られた。

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