映画評「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」

☆☆★(5点/10点満点中)
2021年イギリス映画 監督ウィル・シャープ
ネタバレあり

ルイス・ウェインという画家についてはこの映画で知ったのみ。猫ばかり書いていたらしい。

19世紀後半の英国。既に絵を描いていた紳士階級(ジェントリー)のウェイン(ベネディクト・カンバーバッチ)は、4人の妹を養育する為に頑張らねばならない。病気の母の代りに家をきりもりしている長妹キャロライン(アンドレア・ライズボロー)が妹たちのために家庭教師エミリー(クレア・フォイ)を雇う一方、兄に結婚しろとはっぱをかけている。
 彼は年上で下層階級のエミリーと気持ちが通じ合って周囲の反対を押し切り結婚する。が、彼女は乳癌で3年余りに死んでしまう。しかし、この期間に二人は拾った子猫をピーターと名付けて可愛がり、エミリーの慰みとする。彼女の死後発表した猫の絵やイラストが評判を呼んでスターのように人気者になるが、著作権に対する意識がなかった為に家計はどんどん傾き、妹の一人マリーが精神病を発症する。
 どうもこの病気は遺伝的なもので、画家自身も、電気絡みで訳の分からないことを発言し、遂には妹たちによって精神病院へ送られてしまう。

というお話で、邦題はミスリード気味で、妻を愛しネコを愛したのは間違いないにしても、そういうヒューマンな内容にはなっていない。妻への愛が猫に傾倒させ、それが合わさって絵のモチーフになっていったという感じなのである。
 若い頃から奇人で、中年以降言論が益々奇怪になっていくのを我々観客はただ見守るしかなく、作品に対してどう挨拶して良いか困るような印象を覚える。

画面は4:3に近く、時々画面が絵画調になったりフィルターがかけられ、絵画ムードは醸成されるが狙いが不鮮明で、僕は余り感心できなかった。

序盤と終盤にインド/パキスタン系の男優、渡米時にアフリカ系の女優が出て来て主人公と同席するが、これも例によって “就職機会の均等” の為の、見た目と実際が違う紛らわしい配役なのであろうか? 近年英国の時代劇にはこの手が多く困る。
 お話の理解には大した支障もないが、紳士階級と家庭教師(下層階級)の交際が問題になる描写がある一方、人種差別が今どころではなかった当時の英国や米国の社会でああいうことがありえたのか(アメリカにも自由黒人はいたし、絶対ないとは言い切れない)という疑問が湧く。十中八九、彼らは有色人種が演じる白人なのであろう。時代劇を見る度にこんなことを考えることになるとは!

この手のことをするのは、人権への意識が映画愛より高いということで、どちらかと言えば世界の映画の中でも一番愛する英国映画の関係者がこういうことをやるのは残念でならない。就職機会の均等はどんどん進めるべきだが、スタッフと画面に現れる俳優を同じように扱うのは間違いだ。時代劇でこれをやると、演劇と違い、事情を知らない人が見る可能性が高い映画(愚かなる我が甥によると、映画は9割の大衆の為に作られるのだそうだ。これも大変な誤解だが)では、歴史改竄になりうる。

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