ビートルズで韻を勉強しよう : その1

 その1とありますが、2があるかは解りません。

 さて、【オカピーの採点表】というCD評ブログもやっていますが、そこへのコメントで押韻(基本的に脚韻のみ)に触れたり、あるいは僕がよく訪問しているビートルズ系音楽YouTuberへの書き込みで押韻への言及がままあります。しかし、押韻を完全に理解していないのではないかと思われる人が多いので、実際の曲でちょっと勉強してみようと思い立ちました。
 押韻が問題になるのは、翻すと、押韻がそれほど多くないという勘違いがあるのではないかと推察されます。実際には、ビートルズで押韻が全くないという曲は、リフも押韻と考えると、殆どないのではないでしょうか。
 押韻については、次を押さえれば、大分韻への理解が進むと思います。

(1)音楽的フレーズと文学的フレーズは必ずしも一致しない。つまり、歌詞の最後だけを見てもダメだということ。
(2)韻は、子音は無視できる。例えば、my, mine, mind, time, light は押韻の構成要素になり得るということ。但し、mine と light といった組合せで押韻する実例は殆どない。また、厳密には違う母音も音韻の近いものなら構成要素になる。例えば、”オウ” ”オー” ”オア” など可能。
(3)複数の単語に渡る場合もある。
(4)連続して押韻するとは限らない。AABCCBやABABCDCDなど。

 どうです? 思ったより押韻を作る要素は多いでしょう? ここまで解れば、もう後はご自分で勉強されれば十分ですが、とりあえず、ビートルズのファースト・アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』からオリジナル8曲を曲順通りに調べてみましょう。
 押韻要素が出てきた順にA、B、Cと振っていきます。また、韻の一種と言えないこともないリフはそう書きます。何でもないものはNOとします。

 歌詞はJASRACがうるさいので、フレーズ最後の文字だけ表記します。悪しからず。また、上記(1)の説明通り、以下のリストでは歌詞カードの行変えと一致しないところが出ていますので、要注意。

歌曲構成に関する英単語の語義説明:
verse =Aメロ、bridge=Bメロ、chorus=サビ、refrain=場合によってはサビ、pre-chorus=場合によってはBメロ。chorus は日本語のコーラスと違うので、要注意。



I SAW HER STANDING THERE
[Verse 1]
seventeen : A
mean : A
compare : B
another : NO (後でDとなる)
there? :B

[Verse 2]
me : C
see : C
her : D
another : D
there : リフ

[Bridge]
boom : E
room : E
mine : NO

[Verse 3]
night : F
tight : F
her : D
another : D
there : リフ

[Outro]
there : リフ
there : リフ

講評:Aメロの1番と2番/3番で押韻する位置が違うので、作詩(作詞)法に照らせば不完全です。現在流行のラップに近い、AABB型を I Saw Her Standing There 型ということにします。


MISERY
[Intro]
misery : リフ

[Verse 1]
guy : A
cry : A
bad, (misery ): B (2番の最後と呼応)

[Verse 2]
for sure : C (二つの単語で押韻)
no more : C
drag, (misery) : B

[Bridge]
done : D
one : D

[Verse 3]
me : E
see : E
misery : E/リフ

[Bridge]
done : D
only one, lonely one : Dプラスα

[Verse 3 - Outro]
me : E
see : E
misery : E
misery : リフ
misery : リフ
Misery : リフ

講評:今回はちと複雑。二つの単語での押韻が二種類。二番目の押韻は1番と2番の最後のフレーズで呼応している。ちょっと面白いですね。AABCCB のタイプを Misery 型と呼ぶことにします。


ASK ME WHY
[Verse 1]
you : A
want to know: B (3つの単語で押韻)
true : A
goes to show : B
know : B´
blue : A

[Verse 2]
mine : C
me cry : D
time : C
reason why : D
cry : D´
sad : E
had : E

[Bridge]
believe : F
me : G
conceive : F
misery : G

[Refrain]
love you : H
of you : H

[Verse 3]
you : A
want to know : B
true : A
goes to show : B
know : B´
blue : A

[Refrain]
love you : H
of you : H

[Bridge]
believe : F
me : G
conceive : F
misery : G

[Refrain]
you : リフ
you, hoo hoo : リフ

講評:歌詞カードをボーっと見ているだけでは見落とす押韻あり。want to know と goes to show 全体を押韻とするのは少々厳しいですが、ぎりぎり行けるでしょう。韻の種類が多く、 複数の単語で押韻する箇所が二つあります。 ジョンが頑張った。ABABCDCDのタイプを Ask Me Why 型と呼ぶことにしましょう。


PLEASE PLEASE ME
[Verse 1]
my (girl) : A
try, (girl" ): A

[Chorus]
(Come on) : リフ
(Come on) : リフ
you : リフ/B

[Verse 2]
way, love : C
say, love : C

[Chorus]
(Come on) : リフ
(Come on) : リフ
you?" : リフ/B

[Bridge]
complaining : D
rain in : D
heart : NO
pleasing with you : E
reason with you, : E
blue? : B/E´

[Verse 3]
my (girl) : A
try, (girl): A

[Chorus]
(Come on) : リフ
(Come on) : リフ
you : リフ/B

[Outro]
you : リフ
you : リフ

講評:複数の単語での押韻に工夫を感じます。1番/2番のフレーズ最後 you とBメロのフレーズ最後 blue の押韻は見落としやすい。


LOVE ME DO
[Verse]
me do : A
you : A´
be true : A
me do : A
me do : A (リフ)

[Verse]
me do : A
you : A´
be true : A
me do : A
me do : A (リフ)

[Bridge]
love : リフ
new : A´
love ; リフ
you : A´

[Verse]
me do : A
you : A´
be true : A
me do : A
me do : A (リフ)

[Verse]
me do : A
you : A´
be true : A
me do : A
me do : A (リフ)

[Outro]
me do : A (リフ)
me do : A (リフ)
me do? : A (リフ) 

講評:事実上一つの韻しかない。今後このタイプを Love Me Do 型と呼びましょう。


P.S. I LOVE YOU
[Intro]
letter : NO
you : リフ
always : NO
you : リフ

[Verse 1]
together : A
forever : A
you : リフ
you : リフ

[Verse 2]
you, love : B
do, love : B
you : リフ
you : リフ

[Bridge]
letter : NO
you : リフ
always : NO
you : リフ

[Verse 1]
together: A
forever : A
you : リフ
you : リフ

[Bridge]
letter : NO
you : リフ
always : NO
you : リフ

[Verse 2]
you, love : B
do, love : B
you : リフ
you : リフ

[Outro]
you : リフ
you : リフ

講評:初期のポールは結構単純ですね。使う単語もありふれたもの。


DO YOU WANT TO KNOW A SECRET
[Intro]
you : NO
care : NO

[Verse]
Listen : NO
secret? : A
tell? : A
Closer : NO
ear : B
hear : B
you : NO

[Verse]
Listen : NO
secret? : A
tell? : A
Closer : NO
ear : B
hear : B
you : NO

[Bridge]
week or two : C
we two : C

[Verse]
Listen : NO
secret? : A
tell? : A
Closer : NO
ear : B
hear : B
you : NO

講評:恐らくジョン作と思われるこちらもぐっと単純。ほぼ手抜き歌詞(笑)。week or two と we two が押韻だとすれば面白い。secret と tell は押韻していますが、少々苦しい。


THERE'S A PLACE
[Verse 1]
place : NO
go : A
low : A
blue : NO
mind : B
time : B
alone : A

[Verse 2]
you : C
do : C
head : D
said : D
you" : NO

[Bridge]
sorrow : E
so? : E´
tomorrow : E
so? : E´
 
[Verse 3]
place : NO
go : A
low : A
blue : NO
mind : B
time : B
alone : A

[Outro]
place : NO
place : NO
place : NO
place : NO

講評:単純ですが、押韻のタイプはそれなりに多い。mind と time は見落としがちですね。

この記事へのコメント

蟷螂の斧
2024年02月13日 19:16
こんばんは。MISERYの押韻が一番いいと思いました。高校に入学した頃です。
今でいうスクールカーストで僕が悩んでいた頃です(苦笑)。
まずは[Verse 1]guy : A cry : A このあたりがいいですね~!

>AABCCB

この表現の仕方は、先日話題にした「あの娘におせっかい」「戦士の休息」「OK!マリアンヌ」を思い出します。ありがとうございました。
オカピー
2024年02月13日 22:27
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>まずは[Verse 1]guy : A cry : A このあたりがいいですね~!

蟷螂の斧さんは、”アイ”の押韻がお好きなようですね。
ジョン・レノンの曲でも、アイの畳みかけだったという記憶があります。
ジョン自身も好きなのようで、It's Only Love で徹底していました。

>>AABCCB

“思い出す”とあるのでご理解していると思いますが、これは押韻の順番です。
蟷螂の斧
2024年02月14日 18:12
こんばんは。だいぶ日が長くなりました。永日。

>“思い出す”とあるのでご理解していると思いますが、これは押韻の順番です。

理解していなかったです(汗)。失礼しました。

>蟷螂の斧さんは、”アイ”の押韻がお好きなようですね。

なるほど。そうかも知れません(笑)。ありがとうございます。

>THERE'S A PLACE
>sorrow : E
>tomorrow : E

このあたりも心地よいです。

>There's a Place (live)

ライヴもまたいいですね~!
https://www.youtube.com/watch?v=ZWXLWU4f10M
そして初期ビートルズもまたいいなあ~!
オカピー
2024年02月15日 08:52
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>>>AABCCB
理解していなかったです(汗)。失礼しました。

以下の右のアルファベットに注目して下さい。要は、韻構成の並びです。
 韻は単独では単なる洒落に終わってしまうわけで、作詩法では、一番と2番の同じ場所で韻を踏むのが基本です。ラップと違って韻要素が常に隣接しているとは限らないのが従来の音楽。

guy : A
cry : A
bad, misery : B (二つの単語で押韻、2番の最後と呼応)

for sure : C (二つの単語で押韻)
no more : C
drag, misery : B

こういう並びは洗練されてい、品があります。
Aske Me Why のABABCDCDという押韻構成も素敵。

なかなか面白くなってきましたので、With the Beatles 8曲についてもやってみましょう。初期は、you, to, true, do などありふれたものが多く、文学的観点から見る僕には余り面白くないデス。ただ、複数語で押韻を試みているのは注目していいですね。
中期以降、押韻に使う単語もありふれたものでなくなっていきます。
蟷螂の斧
2024年02月18日 19:47
こんばんは。

>ASK ME WHY

you : A
true : A
blue : A
want to know: B (3つの単語で押韻)
goes to show : B
know : B´

いいですね~!

>作詩法では、一番と2番の同じ場所で韻を踏むのが基本です。ラップと違って韻要素が常に隣接しているとは限らないのが従来の音楽。

僕はまだそこまで辿り着いていません。

>With the Beatles 8曲についてもやってみましょう。初期は、you, to, true, do などありふれたものが多く、文学的観点から見る僕には余り面白くないデス。

ビートルズ・シネ・クラブの月刊誌に「With the Beatles」のオリジナル曲は歌詞がイマイチだと書いてありました。
オカピー
2024年02月18日 21:47
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>>Ask Me Why

ABABCDCD型は、英国の伝統的な作詩法で、品が良いです。
Ask Me Why はその意味で実に良いと思います。

>ビートルズ・シネ・クラブの月刊誌に「With the Beatles」のオリジナル曲は歌詞がイマイチだと書いてありました。

全くその通りです。
歌詞そのものと押韻のレベルは必ずしも一致しませんが、どちらもダメですね(笑)
意外な曲(?)が押韻では一番良かったですよ。
蟷螂の斧
2024年02月19日 20:41
こんばんは。

>全くその通りです。

そして他人が書いたスタンダードナンバーは歌詞が素晴らしいと書いてありました。さすが作詞のプロ!って事でしょう。

>意外な曲(?)が押韻では一番良かったですよ。

どの曲ですか?
オカピー
2024年02月19日 22:24
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>>意外な曲(?)が押韻では一番良かったですよ。
>どの曲ですか?

何日か後に記事を出しますので、お待ちください<(_ _)>