映画評「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2023年アメリカ映画 監督ホアキム・ドス・サントス、ケンプ・パワーズ、ジャスティン・K・トンプスン
ネタバレあり

アニメ版第2作。
 僕が第1作が余り楽しめなかったのは “左脳人間が齢をとってのなれの果て”と自虐したくなるのだが、今回は特に画面が著しく進化して、湯浅政明監督の怒涛と言っても良い賑やかな画面に追いつき、あるいは超えたかもしれない、と思った。その画面に彼の作品のような奇妙な味こそなけれ、画面の切り替えの速さに年寄は腰を抜かしましたよ。

140分という長さの割に骨格を成すお話は割合単純(正確に僕が理解しているかどうかかなり疑問を覚えるが)。
 マルチバース(多元宇宙)の世界においてスパイダーマンの一人であるプエルトリコ系の少年マイルズ・モラレス君(声:シャメイク・ムーア)が、彼の存在ゆえにメタバースの世界秩序が破壊される為スパイダーマン・ソサエティーに排除され、その理由が警官である彼の父親ジェファ―スン(声:ブライアン・タイリー・ヘンリー)が死ぬ運命をマイルズ君が阻止しようとすることにあると知ったことから、却って彼は父を死なすまいと躍起になって、彼がスパイダーマンにならなかった本来の世界に戻る。
 やがて、少年はその世界がもっとややこしいことを知る。

これにスパイダーマンのオリジンであるピーター・パーカーを殺してしまったグウェン(声:ヘイリー・スタインフェルド)が女スパイダーマンとして大いに絡み、穴人間スポットも次元を自在に旅して世界を混乱させるのに活躍する。

様々のスパイダーマンが出て来るマルチバースは、多様化を目指す人々にとって非常に好都合であると痛感した。男性も女性もなく、人種も民族も関係ない。主人公はプエルトリコ人で、途中でインドのスパイダーマンも出て来る。
 映画人は、時代劇の白人役に有色人種を起用するくらいなら、こういうSFや多様化が進む現在を扱う作品を作れば良い、と知るべし。時代劇に一見オーパーツに見える有色人種俳優を投入し(多くは結果的に)歴史改竄に寄与する【就業機会の均等】映画は映画にとって良いことは何もない。人種差別問題啓蒙の為にも、恐らく、良くない。

ベテラン鑑賞者こそ画面に傾倒すべし。カットは目まぐるしく替わり、絵のタッチも色々と変わり、二回ほど実写の人間とアニメの登場人物が交錯する場面があり、なかなか興味深い。

題名は恐らくビートルズの「アクロス・ザ・ユニバース」を意識している。

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