映画評「侍」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1965年日本映画 監督・岡本喜八
ネタバレあり

郡司次郎正の時代小説「侍ニッポン」の5度目の映画化。橋本忍の脚色で、監督は岡本喜八。

生誕100年記念でWOWOWが組んだ小特集の第一弾。前回観たのは、いつだったか?

テーマは桜田門外の変。
 実の父親が不明だが面倒を見て来た商人(東野英治郎)の態度を見るとそれなりの侍の庶子と見える新納鶴千代(三船敏郎)が、井伊直弼(松本幸四郎)の暗殺を企む水戸の天狗党残党に与している。
 残党一味は腕っぷしは立つが正体不明の新納をまず疑うが、彼が特に懇意にしている栗原栄之助(小林桂樹)の姻族に井伊側人物がいることを根拠に、新納に彼の殺害を命ずる。暗殺の先頭に立ち、倒幕側に認められて出世を狙っている新納は悩んだ末に親友を殺す。
 その直後に、老商人と宿屋の女将(新玉三千代)の会話から彼の正体が残党一味にも洩れ、決行の朝、残党の首領・星野堅物(伊藤雄之助)は万が一のことを考えて新納の暗殺を狙うが、そう簡単にやられる彼ではない。
 そして、いよいよ決行の段。彼は、敵も味方もほぼ全滅状態の中、念願の直弼の首を掲げて街道を闊歩する。

事件の背景などは実際通りだが、襲撃者についてはフィクション。
 特に主人公の扱いについては、原作があるとは言え、ミステリー的な扱いが橋本忍っぽい。回想がよく用いられるなど「切腹」(1962年)と似てい、同様に、体制や階級社会に対しシニカルなムードが漂う。
 半世紀以上前の作品だから遠回しにミステリー的部分について説明する(勘の良い人なら凡その見当が付くでありましょう)と、主人公はギリシャ悲劇的な立場なのである。本作のストーリー上の面白味はここに尽きる。

序盤はややまだるっこいが、退屈するほどではない。
 岡本喜八の演出は「日本のいちばん長い日」同様にしかつめらしくて彼らしさが希薄だが、一ヶ所だけジャンプカットとズームとを組み合わせたかなり変なトランジションがあって面白い。クライマックスの暗殺場面のアクションの迫力もさすがと言うべし。

本来なら先輩監督・小林正樹あたりが担当する素材でしたかな。

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