映画評「ブルークリスマス」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1978年日本映画 監督・岡本喜八
ネタバレあり

岡本喜八の珍しいSFだが、反体制的な基調は一昨日の時代劇「赤毛」に通ずるものがある。

UFOが世界各地に頻繁に訪れるのに連れ、血液が青い人が増え、アメリカの軍施設で処分されているらしいという情報をTV局の外信部員・仲代達矢が知り、上層部の命令で渡米して、それに関連する発言をした日本人学者・岡田英次にインタビューしようとする。
 岡田が何者かに拉致されるのを目撃した後帰国した仲代に対する局上層部の態度が急変、彼はパリに派遣されることになる。

ここから主人公が、青い血液を持つ人々を捕まえるのが仕事となった自衛隊隊員勝野洋に代わる。彼は恋人になったバーバー店員・竹下景子が青い血を持つことを知るが、愛情に変わりはない。
 しかし、死んだことになっていた自衛隊の同僚・沖雅也が現れ、青い血液の人を皆殺しにして異星人による侵略に見せかける謀略が世界的に展開されようとしていると告げる。それは現実化し、勝野は自分の恋人がその対象になっているのを知る。回避が無理だと知った彼はクリスマス・イヴで彼を待つ彼女を射殺した後反旗を翻そうとして射殺される。

実質的な主人公は勝野で、出番の多い仲代は主人公に見える狂言回しと理解できる構成。

特撮に余りお金を掛けず、どちらかと言えば「渚にて」(1959年)のスタイルで静かな恐怖を見どころにした作品でありましょう。
 UFOが先なのか、謀略が先なのか、少々疑問の残るお話で、僕はUFO=宇宙人自体が特にアメリカの自作自演という気がしたのだが、わざわざ青い血の人を増やして後で抹殺するというのも変な流れなので、やはりUFO=宇宙人は本物か? 

いずれにしても、反ナショナリズム的な立場であろう岡本監督は、社会における異物排除の怖さを、SFの形で訴えているわけである。未だに7%くらいの日本人が保守の立場として外国人を排除しようとしてい、それ自体は外国人がぐっと増えただけに、この映画が作られた四十数年前より、目立つようになった気さえする。
 トランプの移民排除は多く経済問題意識に立脚しているので、ある意味説得力があるが、日本当局の難民認定率の低さが何がベースになっているのだろう? クルド人の認定率の低さはどうもトルコ政府への配慮があるような気がしてきたが、それだけでもなさそう。豊臣秀吉以降の伝統かいな。ジャレド・ダイヤモンドは「銃・病原菌・鉄」で、日本が黒船に屈服したのは、江戸時代の鎖国により折角手に入れた銃器の類を発展させることがなかった、と読めるように書いている。江戸幕府が保身ではなく、日本の未来のみ考えて鎖国をしなければ航海術にも長け、日本が逆に黒船来航の50年くらい前にアメリカを征服していたかもしれない(ここはあくまで僕の意見というか妄想)。

閑話休題。
 異物排除は問題だという岡本の立場は、日本政府の立場を考えると反体制となるし、本作の謀略は「赤毛」における官軍の謀略に通じないだろうか? 

カットの繋ぎは音の強弱も援用して素晴らしいところが多いが、一番印象深いのは、死んだ竹下景子の青い血が雪上を流れて勝野の赤い血と合流する最後のショットである。違う者同士の結合をこれほど象徴するショットはそうそう見られない。凄い!

一部右派の外国人差別や、今世紀に入って目立つTVメディアの “日本凄い” 的な番組は、バブル崩壊後の自信喪失の裏返しで、日本人の強い承認欲求が反映されていると思う。

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