映画評「キングスマン:ファースト・エージェント」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2020年イギリス=アメリカ合作映画 監督マシュー・ヴォーン
ネタバレあり
シリーズ第3作は、所謂ビギニングである。
つまり、アーサー王と円卓の騎士を気取った英国私設特殊機関が正式に発足する迄の経緯を、20世紀初めのボーア戦争から綴るのである。この時代の歴史のアウトラインを知っておいたほうが断然楽しめる。
IMDb における本作の評価が第一作よりぐっと低い(第一作7.7に対し本作は6.3)のは、この手を見る若い人が歴史をよく知らないからと見た。アウトラインだけでなく、歴史の表舞台(つまり教科書等)に余り出て来ない人物も知っていた方が楽しめるが、こちらは若い人にはもっとハードルが高いですな。
ボーア戦争前線に赤十字として参加していたオックスフォード公(レイフ・ファインズ)の前で愛妻が流れ弾に当たって死ぬ。亡くなる直前に息子コンラッド(青年期ハリス・ディキンスン)を戦争で死なせないことを誓った公は、12年後に第一次大戦が勃発し、出征への気分に抗しえないコンラッドを引き留めようとするが空しい。
陰謀を未然に防いだ公の貢献に免じて王はコンラッドを特別待遇にするが、それを面白く思わない若者は身分を入れ替えて戦った結果上官にスパイと思われて殺されてしまう。無気力になる公。
というのがオックスフォード公と息子との関係を軸にした物語だが、その裏では英国を恨むスコットランド出の謎の人物 “羊飼い” がい、彼の下に怪僧ラスプーチン、レーニン、プリンツィプ、マタ・ハリ、ハヌッセンといった世界史で暗躍した人物が集結している。プリンツィプ以外は主人公や重要人物として出て来る映画を僕も観ている。
しかも、英国のジョージ5世、ドイツのヴィルヘルム2世、ロシアのニコライ2世を不和に陥る従兄弟同士という設定(従兄弟であるのは史実)も重要。プリンツィプによるオーストリア=ハンガリー大公暗殺により世界大戦が始まったのは勿論史実で、史実の裏にあったかもしれない “事柄” をパロディー的に織り交ぜて進行するところが大人のお楽しみである。
つまり、従兄弟同士の不和も “羊飼い” の画策で、かくして起った大戦で英国を敗戦に導くべく、次はラスプーチン続いてレーニンを使ってロシア帝国の撤退を企み、しゃしゃり出て来ると厄介なアメリカのウィルスン大統領にマタ・ハリを使ってハニー・トラップを仕掛ける。実に愉快。
そして、“羊飼い” が手に入れた証拠写真のネガ・フィルムを奪還する役目を負って、息子の死を励みに変えたオックスフォード公が、特殊能力のある黒人執事ショーラ(ジャイモン・フンスー)と女執事ポリー(ジェマ・アタートン)を率いて、断崖の上に構える “羊飼い” のアジトに乗り込む。
アクションの凄味は、ラスプーチンとの親子タッグの対決も秀逸だが、ほぼここに集約される。
一時期細切れショットとアップを使って誤魔化す映画ばかりだったが、僕が口を酸っぱくして文句を付けるうちに、メジャー映画でこの手はほぼ絶滅状態になり、ましてこのシリーズを一貫して監督しているマシュー・ヴォーンは、細切れを使ったかと思うと長回しを使い、それもアップであったりミドルであったりロングであったり、アクションを迫力たっぷりに見せている。VFXの手助けが相当あるにしても、センスがなければ絵に描いた餅に終わってしまうことを考えると、賞賛しなければならない。
ただ今読んでいる「フーコーの振り子」はテンプル騎士団を中心とした神秘学の物語。この手の秘密結社をめぐるお話は西洋に多い。
2020年イギリス=アメリカ合作映画 監督マシュー・ヴォーン
ネタバレあり
シリーズ第3作は、所謂ビギニングである。
つまり、アーサー王と円卓の騎士を気取った英国私設特殊機関が正式に発足する迄の経緯を、20世紀初めのボーア戦争から綴るのである。この時代の歴史のアウトラインを知っておいたほうが断然楽しめる。
IMDb における本作の評価が第一作よりぐっと低い(第一作7.7に対し本作は6.3)のは、この手を見る若い人が歴史をよく知らないからと見た。アウトラインだけでなく、歴史の表舞台(つまり教科書等)に余り出て来ない人物も知っていた方が楽しめるが、こちらは若い人にはもっとハードルが高いですな。
ボーア戦争前線に赤十字として参加していたオックスフォード公(レイフ・ファインズ)の前で愛妻が流れ弾に当たって死ぬ。亡くなる直前に息子コンラッド(青年期ハリス・ディキンスン)を戦争で死なせないことを誓った公は、12年後に第一次大戦が勃発し、出征への気分に抗しえないコンラッドを引き留めようとするが空しい。
陰謀を未然に防いだ公の貢献に免じて王はコンラッドを特別待遇にするが、それを面白く思わない若者は身分を入れ替えて戦った結果上官にスパイと思われて殺されてしまう。無気力になる公。
というのがオックスフォード公と息子との関係を軸にした物語だが、その裏では英国を恨むスコットランド出の謎の人物 “羊飼い” がい、彼の下に怪僧ラスプーチン、レーニン、プリンツィプ、マタ・ハリ、ハヌッセンといった世界史で暗躍した人物が集結している。プリンツィプ以外は主人公や重要人物として出て来る映画を僕も観ている。
しかも、英国のジョージ5世、ドイツのヴィルヘルム2世、ロシアのニコライ2世を不和に陥る従兄弟同士という設定(従兄弟であるのは史実)も重要。プリンツィプによるオーストリア=ハンガリー大公暗殺により世界大戦が始まったのは勿論史実で、史実の裏にあったかもしれない “事柄” をパロディー的に織り交ぜて進行するところが大人のお楽しみである。
つまり、従兄弟同士の不和も “羊飼い” の画策で、かくして起った大戦で英国を敗戦に導くべく、次はラスプーチン続いてレーニンを使ってロシア帝国の撤退を企み、しゃしゃり出て来ると厄介なアメリカのウィルスン大統領にマタ・ハリを使ってハニー・トラップを仕掛ける。実に愉快。
そして、“羊飼い” が手に入れた証拠写真のネガ・フィルムを奪還する役目を負って、息子の死を励みに変えたオックスフォード公が、特殊能力のある黒人執事ショーラ(ジャイモン・フンスー)と女執事ポリー(ジェマ・アタートン)を率いて、断崖の上に構える “羊飼い” のアジトに乗り込む。
アクションの凄味は、ラスプーチンとの親子タッグの対決も秀逸だが、ほぼここに集約される。
一時期細切れショットとアップを使って誤魔化す映画ばかりだったが、僕が口を酸っぱくして文句を付けるうちに、メジャー映画でこの手はほぼ絶滅状態になり、ましてこのシリーズを一貫して監督しているマシュー・ヴォーンは、細切れを使ったかと思うと長回しを使い、それもアップであったりミドルであったりロングであったり、アクションを迫力たっぷりに見せている。VFXの手助けが相当あるにしても、センスがなければ絵に描いた餅に終わってしまうことを考えると、賞賛しなければならない。
ただ今読んでいる「フーコーの振り子」はテンプル騎士団を中心とした神秘学の物語。この手の秘密結社をめぐるお話は西洋に多い。
この記事へのコメント
>立派に「バカバカしい」映画も大事ですよね!(笑)
『立派に「バカバカしい」』という表現が言い得ていると思います^^