映画評「Dear Pyongyang ディア・ピョンヤン」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2005年日本映画 監督ヤン・ヨンヒ
ネタバレあり
「スープとイデオロギー」(2021年)の前段に当たるヤン・ヨンヒ監督の家族ドキュメンタリーである。
認知症になった母親とその介護をすることになった老父の姿を追った「ぼけますからよろしく、おねがいします。」シリーズと重なるところの多い作品だが、こちらの両親は北朝鮮籍で朝鮮総連の幹部だから、観ているこちらの心情はもっと複雑である。
「スープとイデオロギー」は父亡き後のオモニ(母親)=カン・ジョンヒさんがテーマであったが、この旧作はアボジ(父親)=ヤン・ゴンソンさんがテーマである。
ハイライトは、30年前(1971年)に北朝鮮へ送った三人の息子が暮らす平壌に兄弟を両親と娘である監督ヨンヒが訪問するところ(2001年)。僕はここで涙を禁じ得なくなることが多かった。
日本であれば何でもないこの親子・兄妹交流が、北朝鮮と日本という国交のない国とに分かたれた悲劇性(北朝鮮籍だから親たちが北朝鮮に入るのは問題ないが、子供たちは民主主義国の日本へ行くことは許されない)と、三組の子供たち家族の、北朝鮮の庶民としては比較的豊かな生活が実は日本の親たちによって支えられている事実によってである。
これが欺瞞であることに首領様・将軍様に忠誠を誓う両親も実際には気付いているわけで、2004年病気に倒れる直前にアボジは子供たちを北朝鮮に送ったことに対して忸怩たるものがないわけではないことをインタビュアーの体裁の娘に対して匂わせる。朝鮮総連の幹部である彼でさえ、それなのだから、もっと下流の北朝鮮籍の庶民については推して知るべし。
しかし、この映画が感動的なのは、個人主義者の娘と体制主義者のアボジとの思想の違いを超えた父娘としての愛情である。朝鮮総連の運動家などと言うと恐ろしげに思われるが、出て来る父親はちょっと頑固な関西親父であるし、母親は実によく笑う典型的な大阪女性にしか見えない。
この当たり前の家族の情景に何ともじーんとさせられる。年を取るに連れて涙もろくなっているが、それを別にしても人間的な感情を持っているならぐっと来るはず。体制の問題が絡んでるからこそ却って平凡な何気ない家族の風景が感動的なのである。
甥の細君が5年くらい前に平壌へ行った様子を YouTube で紹介している。 中国人だから僕らと違って恐怖もなしに入れるらしい。勿論入国審査みたいなもので検閲されたらしいが。
2005年日本映画 監督ヤン・ヨンヒ
ネタバレあり
「スープとイデオロギー」(2021年)の前段に当たるヤン・ヨンヒ監督の家族ドキュメンタリーである。
認知症になった母親とその介護をすることになった老父の姿を追った「ぼけますからよろしく、おねがいします。」シリーズと重なるところの多い作品だが、こちらの両親は北朝鮮籍で朝鮮総連の幹部だから、観ているこちらの心情はもっと複雑である。
「スープとイデオロギー」は父亡き後のオモニ(母親)=カン・ジョンヒさんがテーマであったが、この旧作はアボジ(父親)=ヤン・ゴンソンさんがテーマである。
ハイライトは、30年前(1971年)に北朝鮮へ送った三人の息子が暮らす平壌に兄弟を両親と娘である監督ヨンヒが訪問するところ(2001年)。僕はここで涙を禁じ得なくなることが多かった。
日本であれば何でもないこの親子・兄妹交流が、北朝鮮と日本という国交のない国とに分かたれた悲劇性(北朝鮮籍だから親たちが北朝鮮に入るのは問題ないが、子供たちは民主主義国の日本へ行くことは許されない)と、三組の子供たち家族の、北朝鮮の庶民としては比較的豊かな生活が実は日本の親たちによって支えられている事実によってである。
これが欺瞞であることに首領様・将軍様に忠誠を誓う両親も実際には気付いているわけで、2004年病気に倒れる直前にアボジは子供たちを北朝鮮に送ったことに対して忸怩たるものがないわけではないことをインタビュアーの体裁の娘に対して匂わせる。朝鮮総連の幹部である彼でさえ、それなのだから、もっと下流の北朝鮮籍の庶民については推して知るべし。
しかし、この映画が感動的なのは、個人主義者の娘と体制主義者のアボジとの思想の違いを超えた父娘としての愛情である。朝鮮総連の運動家などと言うと恐ろしげに思われるが、出て来る父親はちょっと頑固な関西親父であるし、母親は実によく笑う典型的な大阪女性にしか見えない。
この当たり前の家族の情景に何ともじーんとさせられる。年を取るに連れて涙もろくなっているが、それを別にしても人間的な感情を持っているならぐっと来るはず。体制の問題が絡んでるからこそ却って平凡な何気ない家族の風景が感動的なのである。
甥の細君が5年くらい前に平壌へ行った様子を YouTube で紹介している。 中国人だから僕らと違って恐怖もなしに入れるらしい。勿論入国審査みたいなもので検閲されたらしいが。
この記事へのコメント