映画評「エゴイスト」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2022年日本映画 監督・松永大司
ネタバレあり

僕が杉咲花を見初めた「トイレのピエタ」(2015年)にひどく感心した松永大司監督の新作。どうも彼は(とりわけ若い人の)死に深い関心を持っているようである。

同性愛者の編集マンの鈴木亮平が、肉体改造のトレーナーに宮沢氷魚を選び、程なく恋愛関係に陥る。田舎でゲイであることを隠して生きて来た彼は13歳の時に母(中村優子)を失ってい、その命日辺りに一年に一度父親が一人で暮らす千葉の実家へ帰る。
 彼が宮沢君に惚れたのは外見の二枚目ぶりもあるのだろうが、体の悪い母親・阿川佐和子の為に仕事を掛け持って働いているところにちがいない。しかし、相手の宮沢君は鈴木が懸命に尽くしてくれるのが重荷になって去っていく。そこで鈴木は別名で、相手の仕事の一つである性的なサーヴィスの顧客の振りをして、再会を果たす。
 この努力に宮沢君も折れて再び恋仲になり、遂にその関係を隠して彼の母親が待つ家に彼を連れて行く。母親がヘルニアの手術を受けることになり、通院に必要な車を共同出資で買おうと鈴木が提案する。その車が到着した時、しかし、宮沢は突然死する。

開巻後6割くらいのところでのこの展開は少々驚いた。しかるに、この映画の主題は、鈴木青年の母を恋うる物語であり、その結果が、母親のない彼と息子を失った母親の疑似母子物語への進展を目的としたものと解れば、それまでの激しい恋愛模様すらそのイントロダクションに過ぎないと納得させられるものがあるのである。

男性同性愛者の肉体接触場面を見るのが苦手なのを別にしても、僕が本作で一番買うのはその構成の意外性・変則ぶりである。

恐らく多くの場面で、即興演出が用いられている気配がする。特に宮沢の実家に鈴木が訪問をする場面でそれが際立って感じられた。酒場の場面でも当然そのように見えるが、シチュエーション的に際立たず面白味は薄い。

いずれにしても、僕は即興演出も嫌いなので、この作品の場面群のうち一番良いと思うのは、末期癌で入院中の阿川佐和子が認知症の老婦人にとは言え、彼を"息子"と言うところ。主人公の母を恋うる気持ちはここに成就するわけである。感動しました。

俳優陣は充実。専業の女優ではない阿川佐和子の好演が印象深い。

タイトルがちと解りにくいですかな。

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