映画評「アダマン号に乗って」

☆☆★(5点/10点満点中)
2023年フランス=日本合作映画 監督ニコラ・フィリベール
ネタバレあり

「ぼくの好きな先生」というドキュメンタリーで瞠目したニコラ・フィリベール監督の新作ドキュメンタリー。かの作品の何にびっくりしたのかもはや思い出せないが、当時はドキュメンタリーが今ほど多くなかったこともあるだろうが、先生のあるべき姿をそこに見出したような気がする。

いずれにしても、僕は内容より、作り方がいかに内容に沿っているか内容を生かしているかを書くことに傾注している(最近は余り出来ていないが)ので、ドキュメンタリーについて書くのは苦手である。多くのドキュメンタリーに結果的に多い星を進呈しているが、大概扱っている内容の素晴らしさに尽きてしまうのである。
 劇映画はそうは行かない。内容が素晴らしいだけであれば、良い脚本の映画はすべて名作であるが、必ずしもそうでないのが実際である。

前口上はともかく、統合失調症などになった人々をケアするサーヴィスをする団体を扱う内容に、何とも言えない気持ちになる。そういう仕事をする方々には頭が下がる。

あくまで事実を即実的に捉えるフィリベールのスタイルでは、監督を含む映画製作関係者3人、団体関係者、患者たちの区別が直観的に出来ない。明らかに発達障碍者的な人はともかく、いずれも統合失調症を起こしがちなインテリではあるし、音楽を作ったり演奏したり、絵を描く人々は我々と変わる所がないようにさえ見える。多少僕らより繊細な感じがする程度である。
 説明的に人々を区別するのは差別的になりかねないので避けたのかもしれないが、本作の内容の場合そのスタンスが訴求力を落としたような気がする。

ケアをする重要な場所が船であることが劇映画的とも言える素晴らしいムードと面白味を醸成している。船の航行の様子を生かして、そのムードをもっと強調してくれていれば僕の趣味にぐっと合ったと思う。

兄の友人に仇名がアタマンという人がいました。思い出すなア。

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